協議が長引くと損?遺産から生じる家賃収入等(果実)の分配ルール

相続人同士で遺産の分け方が決まらず、遺産分割協議が何ヶ月、場合によっては何年も長引いてしまうことがあります。その間、もし遺産である賃貸アパートから家賃収入が発生していたり、預貯金から利息が生まれていたりした場合、その収益は一体誰のものになるのでしょうか。「協議が長引くほど、自分の取り分が減って損をするのではないか」と、不安に感じる方も多いでしょう。
この、遺産から生じる収益(法律用語で「果実」と言います)の分配については、法律で明確なルールが定められています。この記事では、遺産分割協議が長引いた場合の、遺産から生じる収益の分配ルールと、それでもなお協議を長引かせるべきではない理由について、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
遺産から生じる収益(果実)とは?
相続における「果実」とは、相続開始後(被相続人の死亡後)に、遺産である元々の財産(元物)から生じる収益のことを指します。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 賃貸不動産からの家賃・地代収入
- 預貯金の利息
- 株式の配当金
- 貸付金の利息
最重要ルール:協議中の収益は「法定相続分」で分配される
遺産分割協議が完了するまでの間に発生したこれらの収益(果実)の帰属について、最高裁判所の判例は明確なルールを示しています。
それは、「遺産分割前の果実は、遺産分割の対象とはならず、各共同相続人がその法定相続分に応じて取得する」というものです。
これは非常に重要なルールです。つまり、最終的に誰がその財産(アパートや株式など)を相続するかが決まっていなくても、協議中に発生した家賃収入や配当金は、その都度、各相続人が法律で定められた相続割合(法定相続分)に応じて受け取る権利がある、ということです。
【具体例】
遺産:家賃収入が月30万円あるアパート
相続人:母(法定相続分1/2)、長男(同1/4)、次男(同1/4)
この場合、遺産分割協議が完了するまでの間、毎月の家賃30万円は、母が15万円、長男が7.5万円、次男が7.5万円という割合で、それぞれ受け取る権利があります。これは、たとえ最終的に長男がそのアパートを単独で相続することになったとしても、変わりません。
よくあるトラブルと、自分の権利を実現する方法
このルールを知らないと、特定の相続人に不当な利益を与えてしまう可能性があります。
ケース1:特定の相続人が収益を独り占めしている
亡くなった親と同居していた相続人などが、家賃収入などをすべて自分のものとして管理・費消してしまうケースです。これは、他の相続人の権利を侵害する「不当利得」にあたります。他の相続人は、独り占めしている相続人に対し、自身の法定相続分に応じた金銭の支払いを求める「不当利得返還請求」を行うことができます。
ケース2:収益が故人の口座に貯まり続けている
この場合も、遺産分割協議がまとまり、最終的に口座を解約する際に、相続開始後に発生した利息や入金された家賃などは、遺産本体とは別に、法定相続分に応じて各相続人に分配する必要があります。
それでも協議を長引かせるべきではない理由
「収益は法定相続分で分配されるなら、急いで協議をまとめなくても損はしない」と思われるかもしれません。しかし、それは間違いです。協議を長引かせることには、以下のような大きなデメリットがあります。
- 権利実現の手間と費用:収益を独り占めする相続人に対して、支払いを求めるためには、別途、不当利得返還請求訴訟などの法的手続きが必要になる場合があり、時間も費用もかかります。
- 資産価値の減少:相続人全員の協力が得られず、収益不動産の管理(修繕や入居者募集など)が疎かになれば、資産価値そのものが下落してしまいます。
- 税務上の不利益:相続税の申告期限(10ヶ月)までに協議がまとまらないと、税金の特例が使えず、多額の税金を納めることになるリスクがあります。また、賃料収入等は各相続に所得になりますので、確定申告等手間のかかる手続きをしなければらならない可能性があります。
- 新たな相続の発生:協議中に相続人の一人が亡くなると、関係者が増え、問題がさらに複雑化します。
虎ノ門法律経済事務所 横須賀支店の強み
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遺産から生じる収益の分配ルールは、相続人間の公平を保つための重要な知識です。しかし、このルールに頼る状況は、すでに紛争が長期化している証拠でもあります。最も賢明な選択は、相続開始後、速やかに遺産分割協議に着手し、円満な解決を目指すことです。話し合いが難航しそうな場合は、私たち専門家が間に入ることで、迅速な解決をサポートします。お気軽にご相談ください。
>>無料相談の流れはこちら本記事は、令和7年8月11日時点の法令等に基づき作成しております。法改正などにより、最新の情報と異なる場合がございます。具体的な事案については必ず弁護士にご相談ください。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員