不動産の評価額について折り合いがつかない
相続において不動産が含まれる場合、その評価額を巡って相続人間で意見が対立することは珍しくありません。
「この不動産はもっと価値があるはず」
「評価が高すぎる」
「なぜこの評価方法を使うのか」
といった争いが生じ、遺産分割協議が長期化してしまうケースも多く見られます。
不動産の評価額に関する争いは、単に金額の問題だけでなく、相続人それぞれの思いや将来への希望が絡み合う複雑な問題です。適切な解決を図るためには、不動産評価の基本的な仕組みを理解し、法的に適切な評価方法を選択することが重要です。本記事では、不動産評価額で揉める理由から適切な評価方法まで、税理士・司法書士有資格の相続に強い弁護士が詳しく解説いたします。
目次
なぜ?相続不動産の評価額で揉めてしまう3つの主な理由
相続不動産の評価額を巡る争いには、いくつかの典型的なパターンがあります。これらの背景を理解することで、適切な対処法を見つけることができます。
相続人間の希望や状況の違い(売却したい vs 住み続けたい)
最も多い争いの原因が、相続人それぞれの不動産に対する希望や置かれた状況の違いです。
売却を希望する相続人の視点
現金化による分割の簡素化
不動産を売却して現金化することで、相続人間での公平な分配が可能になると考える立場です。特に相続人が多数いる場合や、遠方に住んでいて管理が困難な場合に多く見られます。
維持費用の負担回避
固定資産税、管理費、修繕費等の継続的な負担を避けたいという経済的な理由から売却を希望するケースです。特に空き家となっている不動産では、この傾向が強くなります。
納税資金の確保
相続税の納税資金を確保するために、不動産の売却を必要とする場合があります。相続税は原則として現金一括納付であるため、現金化の必要性が高い状況です。
継続利用を希望する相続人の視点
居住継続の希望
被相続人と同居していた相続人や、その不動産に愛着がある相続人が居住継続を希望するケースです。家族の思い出が詰まった実家を手放したくないという感情的な理由が大きく影響します。
将来の資産価値上昇への期待
不動産市場の動向を踏まえ、将来的な価値上昇を期待して売却に反対する場合があります。特に立地条件の良い不動産では、この考え方が強くなります。
賃貸収入の確保
収益不動産の場合、継続的な賃貸収入を確保したいという経済的理由から売却に反対するケースです。
評価額への影響
このような希望の違いは、評価額に対する考え方にも大きく影響します。
売却派が実勢価格を重視する理由
売却を希望する相続人は、実際に不動産を市場で売却した場合に得られる金額、つまり実勢価格(市場価格)を重視する傾向があります。これは以下の理由によります:
実際の売却を想定しているため、市場で成立する価格が最も現実的で意味のある評価額だと考える
高い評価額により自分の相続分を多く確保したいという経済的動機
「実際に売れる金額こそが真の価値」という市場原理に基づいた考え方
継続利用派が低評価額を主張する理由
一方、継続利用を希望する相続人は、固定資産税評価額や相続税評価額等の低い評価額を主張することが多くなります:
代償分割を行う場合、低い評価額により他の相続人への代償金を抑えたいという経済的動機
「売却しないのだから売却価格は関係ない」という論理
税務上の評価額の方が公的で客観的だという主張
固定資産税評価額等は毎年の課税の基準となっており、継続的な負担を考慮した適正な価格だという考え方
具体的な価格差の例
実際には、これらの評価額には大きな開きがあります
実勢価格:3,000万円 相続税評価額(路線価):約2,400万円(公示価格の80%が目安とされ、一般に実勢価格より低い価格となります) 固定資産税評価額:約2,100万円(公示価格の70%が目安とされ、相続税評価額よりさらに低い価格となる傾向があります) このような場合、売却派と継続利用派の間で約900万円もの評価額の差が生じることになり、代償分割での代償金額に大きな影響を与えます。 |
採用する評価方法や基準に対する認識のズレ
不動産には複数の評価方法があり、どの方法を採用するかによって評価額が大きく異なります。この点に関する認識のズレも争いの大きな原因となります。
評価方法に関する知識不足
一物四価の理解不足
不動産には公示価格、固定資産税評価額、相続税評価額、実勢価格という4つの価格があることを理解していない相続人が多く、この知識不足が混乱を招きます。
税務上の評価と遺産分割での評価の混同
相続税申告で使用する相続税評価額と、遺産分割協議で使用すべき時価(実勢価格)を混同するケースが頻繁に見られます。
評価基準日に関する認識の違い
評価時点の設定
相続開始時点での評価なのか、遺産分割協議時点での評価なのかで、価格が大きく変わる場合があります。不動産市場の変動が大きい時期では、この差が顕著に現れます。
遺産分割における不動産評価の基本|4つの評価方法と「時価」の重要性
不動産の評価額を適切に理解するためには、まず基本的な評価方法を知ることが重要です。不動産には「一物四価」と呼ばれる4つの価格があり、それぞれ異なる目的で使用されます。
公示価格(公示地価)とは?
公示価格は、国土交通省が毎年3月に発表する標準地の価格です。
公示価格の特徴
公的な価格の基準
公示価格は、一般の土地取引の指標となることを目的として設定されており、他の公的評価の基準ともなっています。不動産鑑定士による鑑定評価に基づいて決定され、客観性と信頼性が高い価格です。
評価地点と範囲
全国で約26,000地点の標準地について価格が公示されます。ただし、すべての土地に公示価格があるわけではなく、標準地から類推して周辺地域の価格を推定する必要があります。
遺産分割での活用方法
時価算定の参考資料
公示価格は実勢価格に最も近い公的価格とされており、時価を算定する際の重要な参考資料となります。ただし、公示価格そのものが遺産分割での評価額となるわけではありません。
評価の妥当性検証
不動産鑑定士による鑑定評価や、不動産会社による査定額の妥当性を検証する際の基準として活用できます。
固定資産税評価額とは?相続税や固定資産税の基準
固定資産税評価額は、市町村が固定資産税を課税するために設定する評価額です。
固定資産税評価額の特徴
3年ごとの評価替え
固定資産税評価額は、原則として3年ごとに見直しが行われます(評価替え)。この間は原則として価格が据え置かれるため、市場価格との乖離が生じる場合があります。
公示価格の約70%水準
固定資産税評価額は、公示価格の70%程度を目安として設定されています。これは税負担の軽減を図るための政策的な配慮によるものです。
限界と注意点
市場価格との乖離
固定資産税評価額は税務上の便宜のために設定されており、実際の市場価格とは大きく乖離する場合があります。特に地価変動の激しい地域では、この傾向が顕著です。
画一的な評価
固定資産税評価額は、効率的な課税事務を目的として比較的画一的な基準で算定されており、個別の不動産の特殊事情が十分に反映されない場合があります。
相続税評価額(路線価方式・倍率方式)とは?
相続税評価額は、相続税や贈与税の課税のために国税庁が定める評価額です。
路線価方式
路線価の概要
路線価は、市街地的形態を形成する地域の道路に設定される価格で、公示価格の80%程度を目安として設定されています。毎年7月に国税庁から発表されます。
評価の計算方法
対象不動産の前面道路の路線価に、土地の面積を乗じて基本的な評価額を算出します。その後、角地加算、不整形地減算、間口狭小減算等の各種補正を行って最終的な評価額を決定します。
倍率方式
適用地域
路線価が設定されていない地域(主に郊外や農村部)では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて相続税評価額を算出します。
倍率の設定
地域ごとに国税庁が定める倍率表に基づいて計算されます。宅地の場合、多くは1.1倍に設定されています。
相続税評価額の特徴
保守的な評価
相続税評価額は、課税の安定性と納税者の予測可能性を重視して、実勢価格よりも低めに設定される傾向があります。
全国統一基準
全国統一の基準で算定されるため、地域差はあっても評価方法の客観性は保たれています。
実勢価格(時価)とは?実際の取引価格に近い評価
実勢価格は、実際の不動産取引において成立する価格、すなわち市場価格のことです。
実勢価格の特徴
市場原理による価格形成
実勢価格は、売主と買主の合意により成立する価格であり、需要と供給のバランスにより決まります。最も経済実態を反映した価格といえます。
変動性
市場環境、経済情勢、地域開発等の影響を受けて常に変動しており、同じ不動産でも取引時期により価格が大きく異なる場合があります。
実勢価格の把握方法
近隣の取引事例
最も重要な資料は、近隣地域での類似物件の取引事例です。立地、面積、建物の状況等が類似する物件の取引価格を参考にします。
不動産会社による査定
複数の不動産会社に査定を依頼することで、市場での売却予想価格を把握できます。ただし、会社により査定額にバラつきがある点に注意が必要です。
不動産鑑定士による鑑定評価
最も客観的で精度の高い評価を得るためには、不動産鑑定士による鑑定評価を取得する方法があります。費用はかかりますが、法的な証明力も高くなります。
【重要】遺産分割協議では「時価」を基準にするのが原則
遺産分割協議において不動産を評価する場合、法律上は「時価」を基準とすることが原則とされています。なお、評価額を算定する基準となる時点は、相続が開始した時点ではなく、実際に遺産分割を行う時点(遺産分割協議が成立した時点)とするのが原則です。不動産価格が変動している場合は、この基準時の違いが評価額に大きく影響します。
時価と他の評価額の関係
参考資料としての位置づけ
公示価格、固定資産税評価額、相続税評価額等は、時価を推定するための参考資料として活用されます。これらの評価額そのものが時価となるわけではありません。
総合的な判断
時価の認定には、複数の評価資料を総合的に検討し、対象不動産の個別事情を考慮した判断が必要となります。
相続した不動産の分け方
現物分割
現物分割は、不動産をそのまま受け継ぐ分割方法です。具体的には「実家を長男(女)全国で約26,000地点の標準地について価格が公示されます。ただし、すべての土地に公示価格があるわけではなく、標準地から類推し
複数の不動産会社に査定を依頼することで、市場での売却予想価格を把握できます。ただし、会社により査定額にバラつきがある点に注意が必要です。
て周路線価が設定されていない地域(主に郊外や農村部)では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて相続税評価額を算出します。辺地域の価格を推定する必要があります。が引き継ぐ」という場合などが、現物分割にあたります。
現物分割のメリットは比較的手続きが簡単な点です。相続人が1人の場合は、名義変更だけで手続きが完了します。一方でデメリットは、相続人の間で公平な遺産分割が難しくなる場合がある点です。例えば1人が相続する不動産の評価額だけがとても高い場合、他の相続人にとっては不公平な状態になってしまうでしょう。また、広大な土地等を複数人で現物分割する場合は、その土地の分筆方法等をめぐって争いになることがあります。
換価分割
換価分割は、不動産を売却して得られた金銭を分割する方法です。売却の方法は、共有者の合意による「任意売却」と裁判所の審判による「競売」の2種類があります。
換価分割のメリットは、不動産が売却できれば、売却代金を平等に分けることができる点です。一方でデメリットは、そもそも任意売却について相続人全員の合意が必要な点です。例えば長男(女)が「実家を引き継ぎたい」と主張しても、すでに他の相続人が実家に居住している場合は難しいでしょう。また、売却による譲渡税や手数料などが発生したり、譲渡所得税の対象になったりする点にも注意が必要です。任意売却について合意ができない場合は,裁判手続により競売する必要があります。
代償分割
代償分割は、特定の相続人が不動産をそのままの形で受け継ぐ代わりに、受け継いだ人が他の相続人に対して代償金やその他の財産を支払う分割方法です。
代償分割のメリットは、特定の人が不動産をそのまま受け継ぐので売却せずにすむ点と、代償によって受取額を同額にできるので公平性が保てる点です。一方でデメリットは、不動産の価値、つまり評価額で争いになることが多く,また,不動産を受け継いだ人が代償となる財産を準備しなければならない点です。代償として支払うことができる財産がなければ、この方法は使えません。
共有
共有とは、不動産をそのままのかたちで複数人が相続する方法です。例えば「母2分の1、長女2分の1」というかたちで、不動産の所有権を複数人で持ち合っている関係になります。
共有のメリットは、形式上は平等な分割ができる点と、手続きに手間がかからない点です。所有権移転登記にかかる費用も抑えられます。一方でデメリットは、管理がしづらくなる点です。小さな変更でも所有者全員の合意を得ないとトラブルの原因になります。また、共有している状態で所有者の一人が亡くなると、さらに共有者が増える可能性があるため注意が必要です。
不動産の遺産分割を弁護士に依頼するメリット
相続問題では不動産が絡むケースが少なくありません。不動産がある場合は「どのように分けるか」という分け方を決めるのが難しく、また登記を含め手続きがとても複雑です。あわせて、マンションや土地のように価値があるものばかりではなく、田舎の田んぼや畑は所有するとむしろマイナスになってしまう場合もあり、もめてしまうケースが多いです。弁護士にご相談いただければ、不要な争いを避けつつ迅速に分割方法を確定させられます。
当事務所の横須賀支店は司法書士資格を有する弁護士が法律相談に対応します。不動産の知識や不動産登記について精通しているため、複雑な手続きを円滑に行うことができます。安心してお任せください。
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虎ノ門法律経済事務所は、不動産評価額を巡る争いをはじめとする相続トラブルの解決において、豊富な実績と経験を有する法律事務所です。複雑な不動産評価の問題についても、多数の解決事例があります。
弁護士法人TLEO 虎ノ門
法律経済事務所横須賀支店の

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所属弁護士数約100名の実績と経験虎ノ門法律経済事務所では、1972年の創立以来、数多くの事件を取り扱ってまいりました。現在では元家庭裁判所裁判官等グループ全体で約100名の弁護士が所属しております。
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相続の年間相談実績約1000件
※事務所全体年間相談実績1000件以上を誇る当事務所が、豊富な経験と蓄積された専門知識・ノウハウで皆様の相続をサポートいたします。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としている。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員