【数次相続】遺産分割中に相続人が死亡…。「相次相続控除」の適用と複雑な手続きを弁護士が整理。

「父の遺産分割協議がまとまらないうちに、相続人だった母も亡くなってしまった…」
「相続手続きをしないまま何年も経ってしまい、関係者が増えて誰が相続人なのかも分からない…」
遺産分割協議が終わらないうちに、相続人の一人が亡くなってしまうケースは決して珍しくありません。このように、最初の相続(一次相続)の手続きが完了する前に次の相続(二次相続)が発生してしまう状態を「数次相続(すうじそうぞく)」と呼びます。
数次相続が発生すると、相続人の数が増え、権利関係が複雑に絡み合います。また、税金面では「相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ)」という特例が使える可能性がありますが、その適用条件や手続きも専門的で分かりにくいものです。
この記事では、数次相続が発生した場合の遺産分割協議の進め方、相続税の負担を軽減する相次相続控除、そして複雑な手続きを乗り越えるための注意点について、相続問題に精通した税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
そもそも「数次相続」とは?
数次相続とは、被相続人(亡くなった方)の遺産分割協議や相続登記などが完了しない間に、その相続人の誰かが亡くなり、次の相続が開始されてしまう状況を指します。
【数次相続の具体例】
- 一次相続:父が亡くなる。相続人は母と長男。
- (遺産分割未了):父の遺産分割が終わらないうちに…
- 二次相続:母が亡くなる。母の相続人は長男。
この場合、長男は「父の相続人」という立場と、「母の相続人」という立場の両方を引き継ぐことになります。具体的には、父の財産を「相続人」として相続する権利と、母が持っていた「父の財産を相続する権利」の両方を相続するのです。
登場人物が少ないこの例でも複雑ですが、相続人が多かったり、代が重なったりすると、関係者はネズミ算式に増え、誰と何を話し合えばいいのか分からなくなってしまうケースも少なくありません。
数次相続が発生した場合の遺産分割協議
数次相続における遺産分割協議は、関係者全員で行う必要があります。ポイントは、亡くなった相続人の「相続権」を、その相続人が引き継ぐという点です。
先の例で、もし母の相続人が長男だけでなく「次男」もいたとしましょう。
この場合、一次相続である「父の遺産」を分割するための協議には、
- もともとの相続人である長男
- 母の相続権を引き継いだ長男と次男
の全員が参加しなければなりません。つまり、長男は自身の立場と、母の相続人としての立場の両方で参加することになります。
このように関係者が増えることで、面識のない親族と話し合いをしなければならなくなったり、意見がまとまらなくなったりするリスクが格段に高まります。
相続税の負担を軽減する「相次相続控除」とは
短期間に相続が相次ぐと、同じ財産に対して何度も相続税が課され、遺族の負担が非常に重くなってしまいます。この負担を軽減するための制度が「相次相続控除」です。
相次相続控除は、二次相続の相続税額から、一次相続で課された相続税額の一部を控除できるという制度です。
相次相続控除の主な適用要件
- 二次相続の被相続人(例のケースでは「母」)が、一次相続(父の相続)の相続人であること。
- 一次相続の開始から、二次相続の開始までが10年以内であること。
- 一次相続の際に、被相続人(母)が財産を取得し、相続税が課されていること。
控除額は、一次相続から二次相続までの期間が短いほど大きくなります。この制度を適用できるかどうか、いくら控除されるのかの計算は非常に複雑なため、相続税に詳しい税理士や弁護士に相談することが不可欠です。
数次相続の手続きにおける注意点
数次相続は、通常の相続に比べて手続きが煩雑になり、多くの注意点が存在します。
① 戸籍謄本の収集が膨大になる
相続人を確定させるためには、亡くなった方全員の出生から死亡までの戸籍謄本等が必要です。数次相続では、一次相続の被相続人、二次相続の被相続人、そして新たに関わる全ての相続人の戸籍謄本等を集めなければならず、その手間と時間は膨大なものになります。
② 相続放棄の判断が複雑になる
相続放棄は、それぞれの相続ごとに行うことができます。例えば、「父の相続(一次相続)は承認するが、母の相続(二次相続)は負債が多いので放棄する」という選択が可能です。逆に、一次相続を放棄して二次相続だけを承認することもできます。どちらの財産状況もしっかり調査した上で、3ヶ月の熟慮期間内に判断しなければなりません。
③ 遺産分割協議が難航しやすい
相続人の数が増えれば、その分だけ意見の対立も起こりやすくなります。特に不動産など分けにくい財産がある場合は、誰が取得するのか、売却するのかで揉めることが多く、協議が長期化・泥沼化する傾向にあります。
最善の対策は「遺言書」
数次相続のような複雑な事態を避けるために最も有効な対策は、生前に「遺言書」を作成しておくことです。遺言書で財産の分け方を指定しておけば、原則として遺産分割協議は不要となり、相続手続きは格段にスムーズになります。残されるご家族が将来揉めないためにも、元気なうちからの遺言書作成を強くお勧めします。
まとめ
遺産分割協議中に相続人が亡くなる「数次相続」は、権利関係、手続き、税金など、あらゆる面で通常の相続より複雑化します。相続人の数が増えることで話し合いは難航しやすく、ご自身たちだけで解決しようとすると、時間と労力がかかるばかりか、親族間の関係が悪化してしまうことにもなりかねません。
また、「相次相続控除」のような有利な税制度も、知らなければ適用を逃してしまいます。
数次相続が発生してしまったら、できるだけ早く、相続問題と税務に精通した弁護士にご相談ください。複雑に絡み合った権利関係を法的に整理し、円満な解決へ向けてサポートいたします。
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広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員