相続人が「自己破産」している場合はどうなる?相続財産は誰のものになるのか。
「相続人のひとりである兄が、どうやら自己破産の手続き中らしい。このまま遺産分割の話し合いを進めてもよいのだろうか?」
「もうすぐ親の遺産を相続する予定だが、自分は借金が多く、自己破産も考えている。相続する財産はどうなってしまうのだろう?」
このようなご不安を抱えて検索された方は少なくないはずです。
先に結論を言うと、自己破産と相続が重なると、相続するはずだった財産が「借金の返済」に回されてしまうことがあります。そして、そうなるかどうかは、「相続と破産、どちらが先だったか」というタイミングでほぼ決まります。
この記事では、前提となる言葉の意味から、タイミングごとの結論、他のご家族の対応、取れる対策までを、相続問題に精通した税理士・司法書士有資格の弁護士が、専門用語をかみくだいて解説します。
まず言葉の意味から:「破産管財人」と「破産財団」
自己破産とは、裁判所に「もう借金を返せません」と認めてもらい、原則としてすべての借金の支払いを免除してもらう手続きです。ただし「タダで借金がゼロになる」わけではありません。その人が持っている財産は、原則としてお金に換えて、お金を貸していた側(債権者)に公平に分配するのがルールです。
このとき登場するのが、次の2つの言葉です。
- 破産管財人…破産した人の財産を調べ、お金に換えて債権者に分配する「係の人」。裁判所が選ぶ弁護士が務めます。
- 破産財団…返済のために破産管財人が管理する、財産のまとまりのこと。ここに入った財産は、本人が自由に使えなくなります。
イメージとしては、破産財団は「借金返済用のかご」です。このかごに入れられた財産は、破産管財人の手でお金に換えられ、債権者への支払いに使われます。
結論:相続した財産も「返済用のかご」に入るのが原則
相続人が自己破産をすると、相続した財産も原則としてこの「かご」(破産財団)に入れられ、本人の手元には残りません(生活に必要な一定の財産=「自由財産」を除く)。
つまり「親の遺産で借金を返して、残りは自分のもの」とはならず、相続分は破産管財人の管理下に置かれ、債権者への返済(配当)に使われるのが原則です。
分かれ道は「相続と破産、どちらが先か」
ここが一番大切なポイントです。親などが亡くなった日(=相続が発生した日)が、裁判所の「破産手続開始決定」より前か後かで、結論が正反対になります。
① 亡くなったのが破産手続開始決定の「前」の場合 → 遺産は返済に回る
この場合、相続はすでに発生していますから、遺産はその時点で「自分の財産の一部」です。そのため自己破産を申し立てるときは、遺産分割の話し合いがまだ済んでいなくても、自分の相続分を財産として裁判所に正直に申告しなければなりません。
「まだ分けていないから」「家族しか知らないから」と隠して申立てをすると財産隠しと扱われ、借金の免除(免責)が認められなくなるおそれがあるほか、犯罪(詐欺破産罪)に問われる可能性すらあります。申告した相続分は、破産管財人によってお金に換えられ、債権者に分配されます。
② 亡くなったのが破産手続開始決定の「後」の場合 → 遺産は自分のもの
反対に、裁判所の開始決定が出た「後」に相続が発生した場合、その遺産は「破産後に新しく得た財産」という扱いになります。
返済用のかご(破産財団)に入る財産は「開始決定の時点で持っていたもの」に限られるため、この場合の相続財産は返済に充てる必要がなく、全てご自身のものになります。
他の相続人から見ると:話し合いの相手が「破産管財人」になる
相続人の中に自己破産した人がいると、遺産分割協議(遺産の分け方の話し合い)の相手は、その本人ではなく破産管財人になります。これは他の相続人にとって、かなり手ごわい相手です。破産管財人の使命は「1円でも多く債権者に分配すること」だからです。
- 実家のような簡単に分けられない財産があると、破産管財人からは、破産した相続人の持ち分を買い取るか、不動産全体を売ってお金で分ける「換価分割」を求められることが多くなります。
- 破産管財人は債権者や裁判所に報告する義務を負っているため、「身内どうしの話し合い」のような譲歩はなかなか期待できません。
借金を抱えた相続人にできる対策は?
「相続放棄」という選択肢
「自分の借金のせいで、実家が売られてしまうのは避けたい」という場合、「相続放棄」という方法があります。相続放棄をすると、その人は法律上「初めから相続人ではなかった」ことになるため、遺産が返済用のかごに入ることもありません。そのぶん、他のご家族が遺産を受け取れます。
注意したいのは放棄のタイミングです。裁判所の破産手続開始決定より後に相続放棄をしても、破産管財人との関係では「限定承認」をしたものとして扱われ(破産法238条2項)、遺産の価値が債権者への返済に取り込まれることがあります。放棄で遺産を守れるかどうかは、時期に大きく左右されます。
ただし、放棄のタイミングや状況によっては問題が生じることもあり、安易な相続放棄は危険です。必ず事前に弁護士にご相談ください。
当事務所の解決事例
>>【解決事例】自己破産寸前…相続した実家とお母様の暮らしを守った「相続放棄」という最善の選択
財産を残す側にできる一番の対策は「遺言書」
「子どものひとりに借金があり、自分の死後、遺産がそのまま返済に消えてしまいそうだ」。そんな心配がある場合は、財産を残す側(将来の被相続人)が生前に遺言書を作っておくことが最も有効な対策です。
遺言書で「借金のある子以外の人に財産を相続させる」と決めておけば、原則としてその内容が尊重されます。ただし、遺言でも奪えない最低限の取り分(遺留分)を請求する権利は、破産した相続人にも残ります。遺言の内容は、専門家と相談しながら決めるのが安心です。
まとめ
- 相続人が自己破産すると、相続した財産は原則として借金の返済に回される
- ただし「亡くなったのが破産手続開始決定の前か後か」で結論は正反対(前=返済に回る/後=自分のもの)
- 遺産を隠して破産を申し立てるのは絶対にNG(免責が認められない・犯罪になるリスク)
- 他の相続人は破産管財人と交渉することになり、通常の遺産分割より難しくなる
- 対策には相続放棄や遺言書があるが、判断を誤ると危険なので早めに弁護士へ
ご自身の状況でどうすればよいか、他の相続人としてどう対応すべきか、お悩みの方は、問題を複雑にしないためにも、できるだけ早く弁護士にご相談ください。
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広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員


