相続人調査は自分でできる?弁護士が解説する戸籍調査の方法
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相続手続きの第一歩「相続人調査」を怠ると思わぬトラブルに
ご家族が亡くなられ、悲しみに暮れる間もなく始まってしまうのが相続手続きです。その中でも、すべての手続きの基礎となるのが「相続人調査」です。
これを怠ったまま遺産分割協議を進めてしまうと、後から新たな相続人が現れ、成立したはずの遺産分割協議がすべて無効になってしまう可能性があります。
「まさか自分の家族に限って…」と思われるかもしれません。しかし、弁護士として数々の相続案件に携わる中で、「亡くなった父に、前妻との間の子供がいた」「会ったこともない甥や姪が相続人だった」といったケースは決して珍しくありません。
協議のやり直しは、時間や手間がかかるだけでなく、相続人間の感情的な対立を生み、最悪の場合、裁判にまで発展することもあります。
この記事では、そうした不要なトラブルを未然に防ぐために不可欠な「相続人調査」とは何か、その具体的な進め方から、相続問題に強い弁護士に依頼するメリットまで、分かりやすく解説します。
相続人調査とは
相続人調査とは、亡くなった方(被相続人)の財産を受け継ぐ権利のある人(相続人)は一体誰なのか、戸籍を遡って全員を特定する調査のことです。
遺産分割協議は「相続人全員」の参加が絶対条件
相続人調査が絶対に必要な理由は、遺産分割協議は相続人全員が参加し、合意しなければ法的に有効とならないからです。
もし、調査漏れがあり、相続人の一人でも欠いた状態で協議・作成した遺産分割協議書は無効です。不動産の名義変更(相続登記)や預金の解約も、後から判明した相続人を含めて全てやり直すことになります。
「知らなかった」では済まされず、時間も費用も、そして家族間の信頼関係も失いかねないのです。
相続人調査の具体的な進め方
相続人調査は、大きく分けて2つのステップで進めます。一見シンプルに見えますが、専門的な知識と多くの手間が必要です。
STEP1:被相続人の「生まれてから亡くなるまで」の戸籍を集める
相続人を確定させるためには、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍をすべて取得する必要があります。
戸籍は、結婚や転籍、法改正などで新しいものが作られるため、一人の人間でも複数の戸籍が存在します。本籍地があったすべての市区町村役場に請求しなければなりません。
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STEP2:集めた戸籍を読み解き、相続人を確定する
すべての戸籍が揃ったら、その内容を正確に読み解き、誰が相続人になるのかを法的に確定させます。
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戸籍謄本: 現在の配偶者や子の存在を確認します。
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除籍謄本: 過去の婚姻歴(前妻・前夫)や、その間の子の有無、兄弟姉妹などを確認します。
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改製原戸籍: 古い様式の戸籍です。特に古いものは手書きの旧字で書かれていることが多く、判読が非常に困難な場合があります。ここから、現在の戸籍には記載されていない養子や認知した子の存在が判明することもあります。
戸籍の取得が楽になった!「戸籍の広域交付制度」
戸籍は、その人が本籍を置く市区町村役場でしか取得できません。そのため、被相続人が結婚や転勤などで本籍地を何度も移している場合、過去に本籍を置いていたすべての役場に、個別に請求する必要がありました。
こうした大変な状況を解消したのが「戸籍の広域交付制度」です。 一言でいうと、「本籍地ではない、一番近くの役所の窓口で、他の役場が管理する戸籍もまとめて取得できる」という画期的な制度です。
メリット①:最寄りの役所【一箇所】でOK!
これまでのように、被相続人の本籍地を追いかけて全国各地の役所に連絡する必要はもうありません。お住まいの近くや勤務先の近くなど、ご自身にとって一番便利な市区町村役場の窓口に行けば、必要な戸籍をまとめて請求できます。
メリット②:相続に必要な戸籍を「一括請求」できる
相続手続きでは、被相続人の「出生から死亡まで」の一連の戸籍が必要です。この制度を使えば、窓口で「被相続人〇〇の、出生から死亡までの一連の戸籍をすべてお願いします」と請求するだけで、担当者がシステムで探し出し、まとめて発行してくれます。
便利になった!でも知っておきたい「広域交付制度の注意点」
非常に便利になった一方で、利用するにはいくつかのルールがあります。思わぬ二度手間を防ぐためにも、以下の点は必ず押さえておきましょう。
1. 請求できる人が限られている
広域交付を利用して戸籍を請求できるのは、以下の人のみです。
- ・本人
- ・配偶者
- ・父母、祖父母など(直系尊属)
- ・子、孫など(直系卑属)
【重要ポイント】 相続人であっても、兄弟姉妹や、甥・姪の戸籍は広域交付で取得することはできません。従来通り、その人の本籍地がある役場に直接請求する必要があります。
2. 郵送や代理人による請求はできない
この制度は、請求者本人が直接役所の窓口に出向く必要があります。郵送での請求や、委任状を持った代理人による請求は認められていません。
3. 一部の古い戸籍は対象外の場合がある
コンピュータ化されていない、手書きの古い戸籍(改製原戸籍)など一部の戸籍は、この制度の対象外となる場合があります。その場合は、従来通りその戸籍がある役場へ直接請求する必要があります。
簡単になっても、弁護士に任せるメリットは大きい
「これだけ簡単になったなら、専門家に頼まなくても自分でできそう」 そう思われる方もいらっしゃるでしょう。確かに、戸籍を「集める」手間は劇的に減りました。
しかし、相続手続きの本質的な難しさは、別のところにあります。
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「読み解く」難しさは変わらない 無事に戸籍の束を手に入れても、それを正確に読み解き、法的に誰が相続人になるのかを確定させる作業が必要です。古い手書きの戸籍の判読や、代襲相続・数次相続といった複雑な権利関係の判断は、専門知識がなければ非常に困難です。
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相続手続きは「集めて終わり」ではない 戸籍収集は、あくまで相続のスタートラインです。その後の遺産分割協議、預貯金の解約、不動産の名義変更、相続税の申告など、やるべきことは山積みです。相続トラブルに発展しそうな場合、交渉の代理や法的な手続きを行えるのは弁護士だけです。
広域交付制度の登場により、私たち専門家も、よりスピーディーに調査を進められるようになりました。このメリットを最大限に活用しつつ、相続全体の流れを見据えて、お客様にとって最も有利で円満な解決へ導くことこそ、弁護士にご依頼いただく最大の価値だと考えています。
相続の入口から出口まで、あらゆる場面を想定して、あなたを力強くサポートします。相続に関するお悩みは、ぜひ一度、当事務所の無料相談をご利用ください。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としている。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員