賃貸中の不動産を相続。入居者を退去させられる?契約継続の可否と注意点

親が遺した財産の中に、アパートや貸家など、第三者に入居者がいる状態の「賃貸中不動産」が含まれていた。新しいオーナー(大家)として、その不動産を相続することになった場合、現在の入居者との関係はどうなるのでしょうか。「自分が住みたいから、出て行ってもらうことはできるのか」「家賃は誰に、いつから請求できるのか」。また、逆に入居者の立場からは、「大家さんが亡くなったことで、いきなり退去を求められるのではないか」という不安が生じます。
このような疑問は、相続法と借地借家法という二つの法律が関わる、専門的な問題です。この記事では、賃貸中の不動産を相続した場合の契約関係の行方と、新しい大家さん(相続人)・入居者双方が知っておくべき注意点について、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
結論:賃貸借契約は、そのまま新しいオーナー(相続人)に引き継がれる
まず、法律上の大原則からご説明します。賃貸人(大家さん)が亡くなったとしても、それによって賃貸借契約が自動的に終了することはありません。亡くなった方が有していた賃貸人(大家)としての地位は、プラスの財産(家賃を受け取る権利など)とマイナスの財産(敷金を返す義務など)が一体となったものとして、そのまま相続人に引き継がれます。
つまり、相続人は、亡くなった大家さんと全く同じ立場で、現在の入居者との間の賃貸借契約を継続する義務を負うのです。家賃や契約期間、その他の契約条件も、全て元の契約のまま維持されます。
新しい大家さん(相続人)がやるべきこと・注意点
賃貸人としての地位を相続した方は、以下の点に注意が必要です。
① 一方的に入居者を退去させることはできない
「相続した家に自分が住みたい」「もっと高い家賃で別の人に貸したい」といった、新しい大家さん側の一方的な都合で、現在の入居者に退去を要求することは、原則として認められません。借地借家法により、入居者の居住権は非常に強く保護されています。立ち退きを求めるには、建物の老朽化による倒壊の危険性など、よほどの「正当事由」が必要となり、通常は多額の「立退料」の支払いも伴います。
② 敷金の返還義務も引き継ぐ
入居者が契約時 に預けた敷金は、将来、その入居者が退去する際に返還しなければならない「預り金」です。この敷金の返還義務も、新しい大家さんであるあなたが、そのまま引き継ぐことになります。遺産分割の際には、このマイナスの財産も考慮に入れる必要があります。
③ 入居者へ、オーナー変更の通知と家賃の振込先を連絡する
相続によって新しい大家さんになったら、速やかに入居者に対し、賃貸人が変更になった旨と、今後の家賃の新しい振込先口座を、書面で通知しましょう。これにより、入居者は安心して家賃を支払うことができ、家賃滞納などのトラブルを防ぐことができます。
入居者(賃借人)が注意すべきこと
一方、入居者の立場では、大家さんが亡くなったと聞いても、慌てる必要はありません。前述の通り、あなたの居住権は法律で守られており、これまでと同じ条件で住み続けることができます。
ただし、注意すべきは家賃の支払いです。相続人が誰になるか確定しないうちに、亡くなった大家さんの口座に家賃を振り込み続けるのは危険です。相続人が複数いる場合、後から本当の新しい大家さんに「こちらに支払ってください」と、二重請求されるリスクがあります。相続人が誰か不明な場合は、法務局の「供託(きょうたく)」という制度を利用し、家賃を法務局に預けることで、家賃滞納のリスクを回避するという方法もあります。
虎ノ門法律経済事務所 横須賀支店の強み
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賃貸中の不動産の相続は、単なる遺産分割だけでなく、入居者との関係という、不動産経営の側面も引き継ぐことを意味します。遺産分割協議が長引けば、その間の家賃収入の帰属をめぐって新たなトラブルが発生する可能性もあります。私たちにご相談いただければ、相続人調査から遺産分割協議、そして新しい大家さんとして必要な法的手続きまで、ワンストップでサポートいたします。
>>無料相談の流れはこちら本記事は、令和7年8月11日時点の法令等に基づき作成しております。法改正などにより、最新の情報と異なる場合がございます。具体的な事案については必ず弁護士にご相談ください。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員