「父に多額の借金があったため、家庭裁判所で相続放棄の手続きを無事に終えた。これで借金を背負うことはなくなり、一安心だ…」
このように、ご自身の相続放棄が完了し、肩の荷が下りたように感じている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、本当に「これで終わり」なのでしょうか。
実は、あなたが放棄した相続権は、消えてなくなるわけではありません。それは次の順位の親族へと引き継がれていきます。
この相続が連鎖する仕組みを知らずに放置してしまうと、ある日突然、何も知らない親戚のもとに債権者から督促状が届き、大きなトラブルに発展してしまう可能性があります。
この記事では、相続放棄によって次に誰が相続人になるのかという「相続順位」の仕組みと、次順位の親族に迷惑をかけないために知っておくべき配慮について、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
相続放棄をすると、相続権は「消滅」せず「次へ移る」
相続放棄の重要なポイントは、家庭裁判所で申述が受理されると、その人は法律上「初めから相続人ではなかった」とみなされる点です。
そのため、もし同順位の相続人が他にいない場合、相続権は自動的に次順位の血族相続人へと移っていくのです。プラスの財産も、借金などのマイナスの財産も、すべてがそのままスライドします。
相続順位の仕組みと相続権が連鎖する具体例
民法では、誰が相続人になるかの順位が明確に定められています。亡くなった方の配偶者(夫または妻)は、常に相続人となります。それ以外の親族は、以下の順位で相続人になります。
- 第1順位:子、その代襲相続人(孫など)
- 第2順位:父母、祖父母など(直系尊属)
- 第3順位:兄弟姉妹、その代襲相続人(甥・姪)
この順位に従って、相続権がどのように連鎖していくかを見てみましょう。
ケース1:子が相続放棄した場合
亡くなったAさんには、妻Bと子Cがいるとします(子はC以外にいない)。
子Cが相続放棄をすると、Cは「初めから相続人ではなかった」ことになるため、妻Bが単独で相続します。
もし、妻Bも子Cも相続放棄した場合、または子がC一人のみでCが放棄した場合は、第2順位であるAさんの父母に相続権が移ります。
ケース2:第1順位と第2順位が全員相続放棄した場合
Aさんの子も父母も(祖父母も)全員が相続放棄をすると、ついに第3順位であるAさんの兄弟姉妹に相続権が移ります。
ここで注意が必要なのは、兄弟姉妹が相続放棄をしても、その子(甥・姪)に相続権は移らないという点です。一方で、兄弟姉妹が既に死亡している場合は、その子(甥・姪)が代襲相続します。
このように、自分としては借金から逃れるために行った相続放棄が、普段付き合いのない親戚を巻き込む事態に発展する可能性があるのです。
次順位の相続人への「連絡」は義務?それともマナー?
「自分が放棄したら、次は叔父さんが相続人になるようだ。連絡した方がいいのだろうか?」と悩む方は少なくありません。
結論から言うと、次順位の相続人に相続放棄したことを伝える法的な義務はありません。
しかし、あなたが連絡をしなければ、次順位の親族は、自分が相続人になった事実を知る由もありません。その間にも、相続放棄ができる3ヶ月の熟慮期間は刻一刻と進んでいきます。
その結果、親族が何も知らないまま熟慮期間を過ぎてしまい、ある日突然、債権者の代理人弁護士から手紙(督促状)が届いて初めて借金の事実を知る…という最悪の事態になりかねません。
このような無用なトラブルを避け、親族としての関係性を損なわないためにも、相続放棄をした際には次の相続人へ連絡を入れることが、法律上の義務はなくとも、非常に重要なマナーと言えるでしょう。
もし全員が相続放棄したら、借金や財産はどうなる?
相続権の連鎖が続き、最終的に相続人となる可能性のある親族全員が相続放棄をした場合、「相続人不存在」という状態が確定します。
この場合、残された借金や財産は、利害関係人(債権者など)の申立てによって家庭裁判所が選任する「相続財産清算人」が清算することになります。
相続財産清算人は、弁護士などの専門家が選任され、故人の預貯金や不動産などを調査・換価(お金に換える)して、債権者への支払いに充てます。支払い後に財産が残れば、それは最終的に国のもの(国庫に帰属)となります。
まとめ:相続放棄は「終わり」ではなく「次への始まり」
相続放棄は、ご自身の負債を免れるための有効な手段ですが、それは決して「相続問題の終わり」ではありません。むしろ、親族間での「相続権の連鎖の始まり」と捉えるべきです。
ご自身の相続放棄が、次に誰に影響を及ぼすのかを正しく理解し、法的な義務はなくとも、次の相続人へ配慮の一報を入れることが、円満な解決への第一歩です。
誰に、どのように連絡すればよいか分からない場合や、相続放棄の連鎖についてご不安な点がある場合は、お一人で悩まず、弁護士にご相談ください。適切なアドバイスをいたします。
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