相続人に「未成年者」がいる場合の遺産分割。特別代理人の選任が必要なケースとその手続き。

「夫が急に亡くなり、相続人は妻である自分とまだ幼い子どもたちです。遺産分割協議を進めたいのですが、私が子どもの代わりにサインをしても良いのでしょうか?」
「相続人の中に、甥にあたる未成年の子が含まれています。手続きはどうすればいいですか?」
ご家族が亡くなられ、相続人の中に未成年者がいる場合、遺産分割の手続きをどう進めればよいのか、多くの方が戸惑われます。
実は、親権者だからといって、未成年のお子様の代理人として遺産分割協議をすることは、原則として認められていません。このようなケースでは、家庭裁判所で「特別代理人」を選任する必要があります。
この記事では、なぜ親権者が代理人になれないのか、特別代理人が必要になる具体的なケースと選任手続きの流れ、注意点について、相続問題に精通した税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
なぜ親権者が未成年者の代理人になれないのか?【利益相反】
未成年者は、単独で有効な法律行為(契約など)を行うことができません。そのため、通常は親権者(父や母)が法定代理人として、本人に代わって法律行為を行います。
しかし、遺産分割協議においては、親権者自身も相続人であることがほとんどです。
例えば、夫が亡くなり、相続人が「妻」と「未成年の子」である場合を考えてみましょう。このとき、妻が子の代理人として遺産分割協議に参加するとどうなるでしょうか。
- 妻の取り分を多くすれば、子の取り分は減る。
- 子の取り分を多くすれば、妻の取り分は減る。
このように、一方の利益が、もう一方の不利益になる関係を「利益相反」といいます。民法では、このような利益相反関係にある場合、親権者が子の代理人となることを禁止しています。これは、親が自分に有利な内容で協議を進めてしまい、子の正当な権利が害されるのを防ぐためです。
「特別代理人」の選任が必要です
利益相反の問題を解決するために設けられているのが、「特別代理人」の制度です。
特別代理人とは、特定の法律行為について、親権者に代わって未成年者の代理人となるために、家庭裁判所によって選任される代理人のことを指します。
この特別代理人が、未成年者の利益を守るために、本人に代わって遺産分割協議に参加し、協議書に署名・押印することで、法的に有効な遺産分割を成立させることができます。
特別代理人が必要になる具体的なケース
ケース1:親と未成年の子が共同相続人となる場合
最も典型的なケースです。亡くなった夫の相続人が「妻」と「未成年の子」である場合、妻と子は利益相反の関係にあるため、子のために特別代理人を選任しなければなりません。
ケース2:複数の未成年の子がいる場合
相続人が「妻」と「未成年の長男・長女」など、未成年者が複数いる場合も注意が必要です。この場合、長男と長女の間でも、一方の取り分が増えればもう一方の取り分が減るという利益相反の関係にあります。
そのため、未成年の子それぞれについて、別々の特別代理人を選任するのが原則です。
特別代理人選任の手続きの流れ
特別代理人の選任は、子の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てて行います。
STEP1:特別代理人の候補者を決める
特別代理人には、相続の利害関係がない親族(祖父母、おじ、おばなど)に依頼することが可能であれば依頼するのがよいでしょう。適当な候補者が見つからない場合は、弁護士や司法書士などの専門家を候補者とすることも可能です。
STEP2:遺産分割協議書(案)を作成する
申立ての際には、「どのような内容で遺産分割をする予定か」を示すために、遺産分割協議書の「案」を提出する必要があります。この案の内容は、未成年者の法定相続分がきちんと確保されているなど、子にとって不利益な内容でないことが非常に重要です。
STEP3:家庭裁判所へ申立てを行う
以下の様な書類を揃えて、子の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
- 特別代理人選任申立書
- 子の戸籍謄本、住民票
- 親権者の戸籍謄本
- 特別代理人候補者の住民票
- 遺産分割協議書案
- 利益相反に関する資料(相続関係図など)
- 遺産に関する資料(不動産登記事項証明書、預金通帳のコピーなど)
STEP4:審判・選任
家庭裁判所は、提出された書類を審査し、申立ての内容が子の利益を害するものではないと判断すれば、特別代理人選任の審判を下します。申立てから選任までは、通常1~2ヶ月程度かかります。
STEP5:遺産分割協議書への署名・押印
特別代理人が選任されたら、その審判書を添付して、最終的な遺産分割協議書に特別代理人が署名・押印します。これで、法的に有効な遺産分割協議が成立し、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約手続きに進むことができます。
【重要】生前対策としての「遺言書」
これまで見てきたように、特別代理人の選任手続きは、書類の準備などに手間と時間がかかります。こうした手続きを避け、スムーズな相続を実現するために最も有効な方法が、生前に「遺言書」を作成しておくことです。
遺言書で「妻に全財産を相続させる」「長男には不動産を、長女には預貯金を相続させる」というように、財産の分け方を具体的に指定しておけば、原則として相続人全員による遺産分割協議が不要になります。
その結果、特別代理人を選任する必要もなくなります。残されたご家族、特に未成年のお子様への負担を減らすためにも、遺言書の作成は非常に有効な生前対策です。
まとめ
相続人に未成年者がいる場合、親権者が子の代理人として遺産分割協議を行うことは「利益相反」にあたるため、原則として認められません。必ず家庭裁判所で「特別代理人」を選任し、その特別代理人が子の代理人として協議に参加する必要があります。
この手続きを怠ると、遺産分割協議そのものが無効となり、相続手続きを進めることができなくなってしまいます。
特別代理人の選任申立てや、子に不利益にならない遺産分割協議書案の作成は、専門的な知識が求められます。ご自身での手続きに不安がある方、どの様に遺産を分けるべきかお悩みの方は、相続の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
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広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員