生前贈与が遺留分侵害になるケースと計算への組み入れ方

相続対策として有効な「生前贈与」ですが、やり方を間違えると、残された相続人間の深刻なトラブルの原因となり得ます。「長男にだけ多額の生前贈与がされていた」「愛人に自宅マンションを贈与していたらしい」。このような場合、他の相続人の遺留分を侵害している可能性があり、相続発生後に「遺留分侵害額請求」という金銭トラブルに発展することがあります。
遺留分を計算する際には、被相続人が亡くなった時に残っていた財産だけでなく、過去に行われた一定の生前贈与も合算して考えなければなりません。この記事では、どのような生前贈与が遺留分の対象となるのか、そしてそれをどのように計算に組み入れるのかについて、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
遺留分計算の対象となる生前贈与の範囲
すべての生前贈与が遺留分計算の対象になるわけではありません。民法では、その贈与が「誰に」「いつ」行われたかによって、対象となる範囲を定めています。
1. 相続人への生前贈与(特別受益)
遺留分を侵害している相続人に対して行われた生前贈与のうち、「特別受益」にあたるものは、相続開始前10年間に行われたものに限り、遺留分算定の基礎となる財産に加算されます。
- 特別受益とは?:特定の相続人が被相続人から受けた、遺産の前渡しと評価できるような特別な利益のことです。具体的には、結婚・養子縁組のための持参金や支度金、生計の資本としての住宅購入資金や事業資金の贈与などが該当します。
- 10年間の期間制限:2019年7月1日の民法改正により、遺留分を侵害している相続人への特別受益が遺留分計算の対象となるのは、相続開始前10年間に限定されました。それ以前の贈与は原則として対象外です。
- なお、遺留分侵害額請求者が特別受益に当たるような贈与等を受けていた場合に
- は請求額から控除する必要がありますが、その際には10年間の期間制限等はありません(民法1046条2項1号)。
2. 相続人以外への生前贈与
愛人や内縁の妻、友人、孫(相続人ではない場合)など、相続人以外の人への生前贈与は、原則として相続開始前1年間に行われたものだけが遺留分計算の対象となります。
【例外】ただし、贈与した側(被相続人)と贈与された側の双方が、その贈与によって遺留分権利者の遺留分を侵害することを知りながら(悪意で)行った場合は、1年以上前の贈与であっても遺留分計算の対象となります。
生前贈与を組み入れた遺留分の計算方法【具体例】
では、実際に生前贈与をどのように計算に反映させるのか、具体例で見ていきましょう。
【設例】
- 相続人:長男、次男の2名
- 相続開始時の財産:6,000万円
- 長男への生前贈与:3年前に事業資金として2,000万円(特別受益)
- 遺言:「全財産(6,000万円)を長男に相続させる」
STEP1:遺留分算定の基礎となる財産の計算
まず、相続開始時の財産に、遺留分計算の対象となる生前贈与を加算します。
6,000万円(相続財産) + 2,000万円(長男への生前贈与) = 8,000万円
この8,000万円が、遺留分を計算するための基礎財産となります。
STEP2:遺留分侵害額の計算
次に、次男の遺留分額と、実際に侵害されている金額を計算します。
- 全体の遺留分額:8,000万円 × 1/2 = 4,000万円
- 次男の遺留分額:4,000万円 × 1/2(法定相続分) = 2,000万円
- 次男が相続で得た財産:0円
- 遺留分侵害額:2,000万円(次男の遺留分額) – 0円 = 2,000万円
この結果、次男は長男に対して、2,000万円の遺留分侵害額請求をすることができます。
※生前贈与の評価額は、原則として相続開始時(被相続人が亡くなった時)の価額に換算して計算します。例えば、贈与されたのが不動産であれば、贈与時の価格ではなく、相続開始時の時価で評価し直す必要があります。
生前贈与と遺留分で揉めないために
生前贈与は有効な相続対策ですが、他の相続人の遺留分に配慮せずに行うと、かえって紛争の火種となります。遺留分トラブルを避けるためには、生前に専門家へ相談し、適切な対策を講じることが重要です。
- 遺言書の作成:なぜそのような財産の分け方にしたのか、付言事項で想いを伝える。
- 生命保険の活用:遺留分侵害額の支払いのための代償金として、生命保険金を準備する。
- 事前の話し合い:なぜその贈与が必要なのかを、他の相続人にも丁寧に説明し、理解を得ておく。
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>>無料相談の流れはこちら本記事は、令和7年9月10日時点の法令等に基づき作成しております。法改正などにより、最新の情報と異なる場合がございます。具体的な事案については必ず弁護士にご相談ください。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員