【デジタル遺産の相続】スマホのロック解除からネット銀行・SNSアカウントまで。放置するリスクと弁護士ができること。

「故人のスマートフォンが開けず、連絡先も写真も見られない…」
「ネット銀行やネット証券を使っていたようだが、手がかりが全くない」
「父のSNSアカウントはどうすればいい?放っておいて大丈夫だろうか?」
現代の相続では、預貯金や不動産といった従来の財産に加え、「デジタル遺産」が非常に大きな問題となっています。パソコンやスマートフォンの中に保存されたデータ、インターネット上のサービス契約など、その形は多岐にわたり、目に見えないために対応が後回しにされがちです。
しかし、デジタル遺産にはネット銀行の預金といったプラスの財産だけでなく、放置すれば損失が膨らむサブスクリプション契約のようなマイナスの財産も含まれます。安易に放置すると、大切な資産を失ったり、思わぬ負債を抱えたりする深刻なリスクがあるのです。
この記事では、デジタル遺産にはどのような種類があるのか、放置した場合の具体的なリスク、そして相続が発生した際に何をすべきか、弁護士ができることまで、相続問題に精通した税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
「デジタル遺産」とは?具体的な種類を解説
「デジタル遺産」とは、故人がパソコンやスマートフォン、インターネット上で利用・保有していたデータや権利全般を指します。これらは、価値や性質によって大きく3つに分類できます。
- 1. プラスの財産になりうるもの
遺産分割の対象となる、金銭的価値のあるデジタル資産です。- ネット銀行の預金、ネット証券の株式・投資信託
- FX(外国為替証拠金取引)の口座、暗号資産(仮想通貨)
- 電子マネーの残高、航空会社のマイレージ、各種ポイント
- アフィリエイト収入、有料ブログの広告収入など
- 2. マイナスの財産になりうるもの
放置すると支払いが発生し続ける可能性のある契約です。- サブスクリプションサービス(動画・音楽配信、ソフトウェアなど)の月額・年額料金
- ネットショッピングの未払い代金
- クレジットカードで定期的に引き落とされる会費など
- 3. 対応が必要なもの(一身専属的な権利など)
金銭的価値はなくても、プライバシー保護や不正利用防止の観点から、死後の手続きが必要になるものです。- SNSアカウント (Facebook, X, Instagram, LINEなど)
- メールアカウント(Gmail, Outlookなど)
- クラウドサービス上のデータ(写真、文書など)
- ブログ、オンラインゲームのアカウント
デジタル遺産を放置する5つの深刻なリスク
「パスワードも分からないし、面倒だから…」とデジタル遺産の調査を怠ると、以下のような深刻な事態を招く恐れがあります。
- プラスの財産の発見遅れ・喪失
最も大きなリスクです。ネット銀行の預金やネット証券の株式に気づかないまま遺産分割を進めてしまうと、本来受け取れるはずの財産を相続できません。長期間放置されれば休眠口座となり、引き出し手続きが非常に煩雑になる可能性もあります。 - マイナスの財産の拡大
故人が利用していた動画配信や音楽配信などのサブスクリプションサービスは、解約しない限り料金が発生し続けます。クレジットカードからの自動引き落としになっていると、気づかないうちに遺産がどんどん目減りしてしまいます。 - 不正利用・情報漏洩
SNSアカウントが乗っ取られ、なりすまし投稿や詐欺行為に悪用される事件が後を絶ちません。また、クラウドサービスに保存された個人情報や写真が流出するリスクも考えられます。 - 借金や追証の発生に気づかない
故人がFXや株式の信用取引を行っていた場合、相場の急変によって追証(追加証拠金)が発生し、相続人が多額の借金を負う可能性があります。この事実に気づくのが遅れると、借金を免れるための「相続放棄」ができる3ヶ月の期間を過ぎてしまう危険性があります。
>>借金などの財産を相続しないようにしたい - 相続税の申告漏れ
ネット上の資産の存在に気づかずに相続税の申告をしてしまうと、後日税務調査で指摘され、延滞税や過少申告加算税といったペナルティ(追徴課税)が課されるリスクがあります。
相続発生!まずやるべきデジタル遺産の調査方法
では、実際に相続が始まったら、何から手をつければよいのでしょうか。
ステップ1:故人のIT機器と関連書類を確保する
まずは、故人のスマートフォン、パソコン、タブレット、そして手帳やメモ帳など、パスワードのヒントになりそうなものをすべて確保・保管します。
ステップ2:スマートフォンのロック解除を試みる
最大の難関がスマートフォンのロック解除です。
- パスワードの推測: 誕生日や記念日、ペットの名前など、思い当たるものを試します(ただし、何度も間違えるとロックがかかるため注意が必要です)。
- 携帯電話会社への相談: 契約者本人が亡くなったことを証明する書類(戸籍謄本など)を持参し、ショップに相談します。一部の機種や条件では、ロック解除に応じてもらえる場合があります。
- 専門業者への依頼: どうしても開けられない場合、データ復旧やロック解除を専門に行う業者に依頼する方法もありますが、費用が高額になる傾向があります。
ステップ3:あらゆる手がかりから契約サービスを洗い出す
IT機器の中身が見られない場合でも、諦めてはいけません。
- 郵便物: 金融機関、証券会社、カード会社からの取引報告書や請求書は最も重要な手がかりです。
- 故人の部屋内の資料を探す: 故人が生活していた部屋や書斎を注意深く確認し、財産関係の資料を探します。
- 家族・友人に聞き取りを行う:故人が生前、どのようなサービスを利用していたか、家族や親しい友人に尋ねてみることも有効です。
自力での調査に行き詰まった場合は、専門家の力を借りることも有効です。
>>遺産の内容を調査して欲しい
弁護士に依頼できること
デジタル遺産の調査や手続きは、プライバシーや専門知識の問題が絡み、ご遺族だけでは限界があるケースも少なくありません。弁護士にご依頼いただくことで、以下のような法的なサポートが可能になります。
- 弁護士会照会制度(23条照会)による相続財産調査: 弁護士は、弁護士会を通じて金融機関や携帯電話会社、各種サービス事業者に対し、契約の有無や内容を照会する法的な権限を持っています。これにより、ご遺族では開示を拒否された情報も、明らかにできる可能性があります。
- 遺産分割協議・調停の代理: デジタル遺産を含めたすべての遺産について、法的な観点から他の相続人との交渉を代理し、円滑な解決を目指します。
- 各サービス事業者の法的手続き代行: 利用規約が複雑な海外のサービス事業者などに対しても、法的な手続きを代行します。
生前にできるデジタル遺産の相続対策
この記事を読まれている皆様ご自身が、将来ご家族を困らせないために、今からできる対策もあります。
- ID・パスワードリストの作成: 利用しているサービス名、ID、パスワード、秘密の質問などを一覧にし、安全な場所に保管して、その場所を信頼できる家族にだけ伝えておきましょう。
- エンディングノートの活用: デジタル遺産の一覧や、死後に各アカウント(特にSNS)をどうしてほしいか(削除、追悼アカウント化など)を書き記しておきます。
- 遺言書の作成: 特に、ネット証券の株式や暗号資産など、価値のあるデジタル資産については、誰に相続させるかを遺言書で明確に指定しておくことで、無用な争いを防げます。
>>希望の遺言書を作成したい
当事務所は、皆様の複雑な相続問題を解決するために、他にはない強みを持っています。
- 1972年創立、所属弁護士数約100名の実績と経験
1972年の創立以来、半世紀にわたり数多くの相続案件を手掛けてまいりました。約100名の弁護士が所属しており、それぞれの事案で蓄積された豊富な判例知識と実務経験を基に、最適な解決策をご提案します。 - 税理士・司法書士有資格の弁護士が対応
相続問題、特に不動産や多額の財産が関わるケースでは、税務の視点が欠かせません。当事務所横須賀支店には、税理士・司法書士有資格の弁護士が在籍しています。法務と税務、登記の全方面から多角的なアドバイスをして最善の解決を目指します。 - グループ内で連携したワンストップサービス
当事務所は、司法書士、税理士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、不動産仲介業者がグループ内に存在するため、各専門家と緊密に連携し、あらゆる手続きをワンストップでサポートすることが可能です。
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デジタル遺産は、現代の相続手続きにおいて避けては通れない、非常に重要な要素です。その存在に気づかずに放置すれば、資産を失うだけでなく、思わぬ負債やトラブルに巻き込まれるリスクさえあります。故人のプライバシーに配慮しつつ、迅速に調査と対応を進めることが求められますが、ITの知識や法的な手続きが絡むため、ご遺族だけで対応するのは大変な困難を伴います。
スマートフォンのロックが解除できない、ネット上の資産の有無が分からず不安、といった状況でお困りの際は、法的な調査権限を持ち、相続問題全体をサポートできる弁護士へ、お早めにご相談いただくことが、最も安全で確実な解決への近道です。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員