遺言執行者が「何もしない」「不公平」 な場合の解任手続きと対抗策

故人の最後の意思を記した遺言書。その内容をスムーズに実現するために、遺言執行者は非常に重要な役割を担います。しかし、その遺言執行者が「いつまで経っても手続きを進めない」「特定の相続人にだけ有利な対応をする」といった場合、残された相続人は大きな不安と不満を抱えることになります。
このような信頼できない遺言執行者に対して、相続人は泣き寝入りするしかないのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。法律は、問題のある遺言執行者を解任し、財産を守るための手続きを定めています。この記事では、遺言執行者が任務を果たさない場合の具体的な解任手続きと対抗策について、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
そもそも遺言執行者とは?その強い権限と義務
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理やその他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利と義務を持つ人のことです。遺言によって指定されるか、家庭裁判所によって選任されます。
遺言執行者には、相続人の代理人としての権限が与えられており、相続手続きにおいて中心的な役割を果たします。具体的には、以下のような職務を行います。
- 相続人の調査・確定
- 遺産の調査と財産目録の作成・交付
- 預貯金の解約・払い戻し
- 不動産の名義変更(相続登記)
- 株式などの有価証券の名義変更
- 遺言の内容に従った遺産の分配
この権限の裏返しとして、遺言執行者は「善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)」を負い、公平かつ誠実に職務を遂行することが求められます。
こんな遺言執行者は解任できる!3つの典型ケース
遺言執行者に「正当な事由」がある場合、相続人などの利害関係人は、家庭裁判所に解任を申し立てることができます。具体的には以下のようなケースが該当します。
ケース1:任務を怠る(何もしない)
最も多いトラブルが、遺言執行者が就任したにもかかわらず、正当な理由なく手続きを全く進めないケースです。
- いつまで経っても遺産の調査に着手せず、財産目録を交付しない。
- 相続人からの連絡を無視したり、進捗報告を一切しない。
- 預貯金の解約や不動産の名義変更など、具体的な手続きを放置している。
ケース2:不公平・不誠実な対応
遺言執行者は、全ての相続人に対して公平・中立な立場でなければなりません。しかし、特定の相続人と結託し、その相続人の利益だけを優先するような行為は、解任の理由となります。
- 一部の相続人にだけ有利な遺産評価額を提示する。
- 遺産に関する情報を一部の相続人にしか開示しない。
- 相続財産を不当に安く特定の相続人に売却しようとする。
ケース3:その他の不適切な行為
その他、任務遂行に適さない様々な行為も解任事由となり得ます。
- 相続財産を自分のものと混同して管理したり、使い込んだりする。
- 病気や高齢などで、事実上、職務の遂行が困難な状態にある。
- 相続人に対して高圧的な態度をとる、暴言を吐くなど、円滑な手続きを妨げる。
【実践】遺言執行者の解任手続きの流れ
問題のある遺言執行者を解任するためには、家庭裁判所での法的な手続きが必要です。感情的に「辞めてくれ」と伝えても法的な効果はありません。
ステップ1:任務の遂行を催告する
まずは、遺言執行者に対して、内容証明郵便など記録が残る形で、行うべき職務を具体的に示し、速やかに実行するよう催告します。これは、後に家庭裁判所で「任務を怠っている」ことを主張するための証拠となります。
ステップ2:家庭裁判所へ「遺言執行者解任の審判」を申し立てる
催告しても状況が改善しない場合、利害関係人(相続人、受遺者など)は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に遺言執行者の解任を申し立てます。申立てには、申立書のほか、遺言書の写し、戸籍謄本、任務を怠っている証拠等が必要となります。
ステップ3:家庭裁判所による審理
家庭裁判所は、申立人と遺言執行者の双方から事情を聴取し、提出された証拠を基に、解任に理由があるかどうかを判断します。ここで、いかに客観的な証拠をもって、遺言執行者の不適切な行為を主張できるかが重要になります。
ステップ4:解任と新しい遺言執行者の選任
解任が認められると、その審判が遺言執行者に告知された時点で効力が生じます。その後、相続手続きを進めるために、利害関係人は家庭裁判所に新たな遺言執行者の選任を申し立てる必要があります。トラブルを再発させないためにも、次の執行者には弁護士などの専門家を選任することが賢明です。
解任請求以外の対抗策
状況によっては、解任までは求めずとも、遺言執行者の不適切な行為によって生じた損害の回復を求めることも可能です。
任務懈怠による損害賠償請求
遺言執行者が故意または過失によって任務を怠り、その結果として相続人に損害を与えた場合、相続人は遺言執行者に対して損害賠償を請求することができます。例えば、不動産の名義変更を放置したために、売却の好機を逃したなどのケースが考えられます。
弁護士による交渉
相続人ご自身で遺言執行者と交渉しても話が進まない場合、弁護士が代理人として介入することで、状況が大きく変わることがあります。弁護士から法的な根拠に基づいた通知書を送付することで、遺言執行者が態度を改め、誠実な対応に応じるケースも少なくありません。
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遺言執行者とのトラブルは、相続手続きを停滞させるだけでなく、相続人間の精神的負担も大きい問題です。ご自身の権利を守り、故人の意思を正しく実現するためにも、遺言執行者の対応に少しでも疑問を感じたら、早期に専門家である弁護士に相談することが解決への第一歩です。当事務所では、解任申立てや損害賠償請求、交渉など、ご状況に応じた最適なサポートを提供いたします。一人で悩まず、まずは一度ご相談ください。
>>無料相談の流れはこちら本記事は、令和7年9月18日時点の法令等に基づき作成しております。法改正などにより、最新の情報と異なる場合がございます。具体的な事案については必ず弁護士にご相談ください。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員