遺留分放棄で相続トラブルは防げる?生前と相続後で手続きは違う?

「事業を継ぐ長男に財産をすべて相続させたいが、他の子から『遺留分』を主張されないか心配だ」「親から『将来のために遺留分を放棄してほしい』と頼まれたが、どうすればよいのだろうか」
特定の相続人に財産を集中させたい場合や、相続争いを未然に防ぎたいと考えたとき、「遺留分の放棄」が一つの選択肢となります。
しかし、遺留分の放棄には、相続が始まる「前」に行うか「後」に行うかで手続きや効果が大きく異なります。特に、安易に生前の放棄を行うと、予期せぬ不利益を被る可能性もあるため注意が必要です。
この記事では、「遺留分の放棄」の制度について、相続開始前と後の違い、メリット・デメリット、そしてよく混同される「相続放棄」との違いを、税理士・司法書士有資格の弁護士が解説します。
そもそも「遺留分」とは?
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、親など)に、法律上最低限保障されている遺産の取り分のことです。
被相続人は遺言によって財産を誰にどのように遺すか自由に決められますが、この遺留分を侵害することはできません。もし、遺言や贈与によってご自身の遺留分が侵害された場合、遺留分権利者は財産を多く受け取った人に対し、侵害された額に相当する金銭の支払いを請求することができます(遺留分侵害額請求)。
相続「前」の遺留分放棄(事前放棄)とは?
被相続人が亡くなる前に、将来相続人となる人があらかじめ遺留分を放棄することを「遺留分の事前放棄」といいます。これは、事業承継などで後継者に財産を集中させたい場合などに利用されます。
手続きには家庭裁判所の許可が必須
相続開始前の遺留分放棄は、相続人の自由な意思だけではできず、家庭裁判所の許可を得なければ効力が生じません。
これは、被相続人や他の相続人からの不当な圧力によって、弱い立場の相続人が意に反して放棄させられることを防ぐためです。そのため、申立てをすれば必ず許可されるわけではありません。
裁判所は、主に以下の3つの点を考慮して、許可するかどうかを慎重に判断します。
1. 本人の自由な意思に基づくか
2. 放棄する理由に合理性・必要性があるか
3. 放棄に見合うだけの代償(生前贈与など)があるか
例えば、「長男が家業を継ぐ代わりに、長女には生前に住宅購入資金として十分な贈与をした」といったケースでは、理由の合理性や代償性が認められやすくなります。
子や配偶者に遺留分の放棄をさせようと考えている場合はある程度の資金を渡す等の代償措置を検討した方がよいでしょう。
事前放棄の注意点:相続放棄との大きな違い
遺留分を事前に放棄しても、「相続人」としての地位は失いません。ここが「相続放棄」との決定的な違いであり、最も注意すべき点です。
相続債務(借金)も承継する
相続人であることに変わりはないため、被相続人に借金があれば、法定相続分に応じて承継することになります。財産はもらえないのに、借金だけを負うリスクがあります。債務を負うリスクは相続放棄をすることにより解決しますので、原則的に遺留分の放棄をした方は、被相続人の死亡後に相続放棄をすることをお勧めします。
他の相続人の遺留分は増えない
ある相続人が遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分が増えるわけではありません。放棄した分は、被相続人が自由に処分できる財産(自由分)が増えるだけです。
遺言書の作成や生前贈与が不可欠
せっかく遺留分を放棄してもらっても、被相続人が遺言書を作成していなければ、原則として法定相続分に従って遺産を分けることになり、放棄の効果がなくなってしまいます。遺留分の事前放棄は、必ず適切な内容の遺言書作成や生前贈与とセットで考える必要があります。
相続「後」の遺留分放棄(事後放棄)とは?
被相続人が亡くなった後に行う遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可は不要です。遺留分を侵害されている相続人が、侵害額請求権を行使しないだけで足ります。
ただし、事後放棄の場合も、相続人としての地位はなくならず、相続債務も承継します。そのため、「遺産も借金も一切引き継ぎたくない」という場合は、遺留分放棄ではなく、次に説明する「相続放棄」の手続きを選択する必要があります。
相続にお困りの方は虎ノ門法律経済事務所にご相談ください
遺留分の放棄は、将来の相続トラブルを回避するための有効な手段となり得ますが、その手続きや法的な効果は非常に複雑です。特に生前の放棄は、一度許可されると取り消しが極めて困難であり、相続人としての権利や義務に大きな影響を及ぼします。安易な判断は、後で「こんなはずではなかった」という深刻な事態を招きかねません。
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広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としている。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員