遺留分と寄与分の関係|どちらが優先されるか

相続の話し合いにおいて、「私は親の介護を一身に引き受けてきたのだから、その分、遺産を多くもらう権利があるはずだ(寄与分)」という主張と、「遺言で全財産を兄に譲るとあるが、私にも最低限の取り分を請求する権利があるはずだ(遺留分)」という主張が、同時に行われることがあります。どちらも相続人の正当な権利ですが、この二つがぶつかり合ったとき、法律上はどのように扱われ、どちらが優先されるのでしょうか。
結論から申し上げると、遺留分の計算においては、寄与分は考慮されません。この記事では、似て非なる「遺留分」と「寄与分」の基本的な違いから、両者が絡み合う具体的なケースでどのように計算が行われるのかまで、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
「遺留分」と「寄与分」の基本的な違い
まず、二つの権利の性質を正確に理解することが重要です。
- 遺留分とは
兄弟姉妹を除く法定相続人に保障された、遺産の最低限の取り分です。遺言によっても奪うことのできない権利です。遺留分を侵害された相続人は、財産を多く受け取った者に対して金銭の支払いを請求できます(遺留分侵害額請求)。 - 寄与分とは
被相続人の財産の維持または増加に特別な貢献をした相続人が、その貢献度に応じて法定相続分以上の財産を受け取れる制度です。例えば、親の事業を無給で手伝ったり、療養看護に尽くしたりした場合に認められる可能性があります。
つまり、遺留分は「相続人に当然に保障される最低限の権利」であるのに対し、寄与分は「特別な貢献をした相続人にのみ認められるプラスアルファの権利」という違いがあります。
計算上のルール:遺留分算定の基礎財産に寄与分は影響しない
法律(民法1044条1項)では、遺留分を算定するための基礎となる財産は、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」に「贈与した財産の価額」を加え、そこから「債務の全額」を控除して算定すると定められています。ここには寄与分を考慮する規定がありません。
したがって、遺留分侵害額を計算する場面では、寄与分の主張は反映されない、というのが法的なルールです。
【具体例】遺留分侵害額請求の場面ではどうなるか
【設例】
- 相続人:長男、次男の2名
- 相続開始時の財産:5,000万円
- 遺言:「全財産を長男に相続させる」
- 長男の主張:生前、父の事業に貢献したため1,000万円の寄与分がある
このケースで、次男が長男に対して遺留分侵害額請求をしたとします。
長男の主張(誤った計算)
「財産5,000万円から私の寄与分1,000万円を引いた4,000万円が遺産の基礎だ。だから次男の遺留分は、4,000万円 × 1/2 × 1/2 = 1,000万円のはずだ」
法律上の正しい計算
遺留分算定の基礎財産は、寄与分を考慮せず5,000万円となります。 したがって、次男の遺留分額は、
5,000万円 × 1/2(総体的遺留分) × 1/2(法定相続分) = 1,250万円
このように、次男は長男の寄与分の主張にかかわらず、1,250万円の遺留分侵害額を請求できます。
寄与分が考慮されるのは「遺産分割協議」の場面
では、寄与分の主張は全く意味がないのでしょうか?そんなことはありません。寄与分がその価値を発揮するのは、遺産分割協議や調停の場です。
遺言がなく、相続人全員で遺産の分け方を話し合う場合、まず相続財産から寄与分を差し引き、残りの財産を法定相続分で分け、寄与が認められた相続人はその寄与分を上乗せして取得します。
(遺産分割での計算)
(相続財産 - 寄与分)× 法定相続分 + 寄与分 = 寄与のある相続人の取得分
遺留分を侵害するような特定の相続人に財産が集中する遺言がある場合でも、遺言から漏れた遺産があるケースや、生前贈与で遺留分が侵害されてるケースで生前贈与財産以外に遺産が存在するような場合は、そのような遺産について遺留分侵害額請求者以外の他の相続人との間で寄与分が考慮されることもあります。
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>>無料相談の流れはこちら本記事は、令和7年9月10日時点の法令等に基づき作成しております。法改正などにより、最新の情報と異なる場合がございます。具体的な事案については必ず弁護士にご相談ください。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員