大切なご家族が亡くなった後、故人が遺した品々を整理し、思い出の深いものを「形見分け」として手元に残したいと考えるのは、遺されたご家族にとってごく自然な感情です。
しかし、もし故人に借金があるなどの理由で「相続放棄」を検討している場合、その何気ない「形見分け」や「遺品整理」が、あなたの将来を左右する重大な結果を招く可能性があります。
良かれと思って行った行為が、法律上「相続財産の処分」とみなされ、相続放棄が認められなくなってしまうケースがあるからです。
この記事では、どこまでが許される「形見分け」で、どこからがアウトとなる「財産の処分」なのか、その法的な境界線を明確にし、相続放棄を前提とした正しい遺品整理の方法について、専門家の視点から詳しく解説します。
なぜ「形見分け」が相続放棄の妨げになるのか?
相続放棄を検討する上で、常に意識しなければならないのが「法定単純承認」という制度です。これは、相続人が「相続財産を処分」するなどの特定の行為をした場合、借金を含めたすべての財産を相続する意思があるとみなす、という民法のルールです。
形見分けや遺品整理が、この「相続財産の処分」に該当してしまうと、もはや相続放棄はできません。そのため、どのような行為が「処分」とみなされるのかを正確に知っておくことが極めて重要になります。
【境界線】「形見分け」と「財産の処分」を分ける基準
では、両者を分ける基準はどこにあるのでしょうか。
それは、その品物に「経済的価値(財産的価値)」があるかどうかです。
裁判例では、経済的価値がほとんどない物を受け取る行為は、社会通念上の儀礼の範囲内とされ「財産の処分」にはあたらない、と判断される傾向にあります。
一方で、客観的に見て売却すればお金になるような価値のある物を持ち帰る行為は、「財産の処分」とみなされるリスクが非常に高くなります。
《OKな形見分け(財産的価値がほとんどない物)》
- 写真、アルバム、手紙、日記
- 一般的な中古の衣類、普段着
- 使い古した家具や年式の古い家電
- 趣味の道具(ただし、高価なゴルフセットや釣り具、カメラなどは除く)
これらは故人との思い出を偲ぶための品であり、換金価値がほぼないため、形見分けとして受け取っても問題になる可能性は低いでしょう。
《NGな形見分け・遺品整理(財産的価値がある物)》
- 現金、預貯金
- 宝石、腕時計、ブランド品のバッグなどの貴金属類
- 自動車、バイク
- パソコン、最新のテレビなどの家電製品
- 骨董品、美術品、絵画、価値のある着物
- 有価証券(株券など)、ゴルフ会員権
これらの財産的価値のある物を、相続人の一人が勝手に持ち帰ったり、売却したり、解約したりする行為は、典型的な「財産の処分」とみなされます。
相続放棄を前提とした正しい遺品整理の方法
故人が賃貸住宅に住んでいた場合など、遺品を片付けなければならない状況は必ず発生します。その際の正しい対処法を知っておきましょう。
- 基本は「価値のあるものには手を付けない」
これが鉄則です。価値があるかどうか自分で判断できない物は、すべて「価値があるもの」として扱い、触らないようにしましょう。 - 遺品整理業者への依頼は慎重に
業者に依頼すること自体は問題ありません。しかし、「費用は遺品を売却した代金で支払ってください」といった依頼の仕方は絶対にNGです。これは業者を介した財産の処分行為にあたります。
遺品整理の費用は、必ず相続人が自身の財産から立て替えて支払い、業者には「価値のある物は別に保管し、価値のない物だけを廃棄する」よう明確に指示してください。 - 賃貸物件の明け渡しを求められたら
大家さんから部屋の明け渡しを求められても、焦って遺品を勝手に処分してはいけません。まずは相続放棄の手続き中であることを伝え、協議しましょう。どうしても遺品を移動させる必要がある場合は、費用を立て替えてトランクルームなどに一時保管するのが安全な方法です。
遺品の中にどのような財産が残されているか分からず、ご自身での整理や判断が難しい場合は、専門家に相談することをお勧めします。
形見分け・遺品整理に関するQ&A
Q1. 故人の車を廃車にしてもいいですか?
A. NGです。たとえ中古車として値段がつかないような車であっても、資産として登録されているものを勝手に廃車にする行為は「処分」とみなされる可能性があります。相続放棄が完了した後、相続財産清算人が適切に処理します。
Q2. 遺品の中から現金や故人の通帳が出てきました。どうすればいいですか?
A. 絶対に使ってはいけません。他の相続財産と一緒に、そのままの状態で保管してください。他の相続人が勝手に引き出している形跡があるなど、不審な点があればすぐに弁護士にご相談ください。
>>預貯金が不正に引き出されいる
Q3. 故人のデジタル遺品(SNSアカウントなど)はどうすればいいですか?
A. アカウントの削除(退会)は、財産的価値のあるポイントなどが貯まっていなければ「処分」にはあたらないと考えられます。しかし、ネット銀行の口座や有料サービスの契約などは財産に関わるため、勝手に解約してはいけません。判断に迷う場合は専門家に相談しましょう。
まとめ:故人を偲ぶ気持ちと法律のルールは別問題
相続放棄を検討している際の形見分けや遺品整理は、「経済的価値」を基準に、細心の注意を払って行う必要があります。
故人を偲び、思い出の品を大切にしたいというお気持ちは非常に尊いものです。しかし、その気持ちと法律のルールは別問題として冷静に捉えなければ、将来ご自身が多額の借金を背負うことになりかねません。
「これくらいなら…」という自己判断が最も危険です。判断に迷う品物については、必ず行動を起こす前に、相続問題に精通した弁護士にご相談ください。
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