「父が多額の借金を残して亡くなったので、相続放棄を考えている。でも、父が私を受取人にしてくれていた生命保険まで受け取れなくなってしまうのだろうか…」
「相続放棄をしたら、遺族年金も受給できなくなるのでは…」
故人に借金がある場合、相続放棄は有効な手段ですが、それによって故人が遺してくれた大切な想いまで手放さなければならないのではと、不安に思う方は少なくありません。
結論から申し上げると、その心配はほとんどの場合、不要です。
この記事では、なぜ相続放棄をしても生命保険金や遺族年金を受け取れるのか、その法的な理由と、多くの方が混同しがちな税法上の「みなし相続財産」との違いについて、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
【結論】相続放棄をしても生命保険金や遺族年金は原則受け取れる!
まず、皆様が最も知りたい結論を先にお伝えします。相続放棄をしても、生命保険金(死亡保険金)や遺族年金は、原則として問題なく受け取ることができます。
なぜなら、これらのお金は、法律上、亡くなった方の財産(相続財産)ではなく、「受取人固有の財産」と考えられているからです。
相続放棄は、あくまで「亡くなった方の財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を一切引き継ぎません」という手続きです。したがって、もともと受取人のものとされる財産については、放棄の対象とならないのです。
なぜ受け取れる?「受取人固有の財産」とは
もう少し詳しく、「受取人固有の財産」という考え方を見ていきましょう。
生命保険金(死亡保険金)の場合
生命保険金は、保険契約に基づいて、保険会社から直接「受取人として指定された人」に支払われるお金です。亡くなった方の財産を経由するわけではないため、受取人個人の財産とみなされます。
【!最重要注意点!】
ただし、一つだけ重大な例外があります。それは、保険金の受取人が「被相続人(亡くなった方)本人」に指定されているケースです。この場合、保険金はいったん被相続人の財産(相続財産)となるため、相続放棄をすると受け取ることができなくなります。保険証券などで受取人が誰になっているか、必ず確認してください。
遺族年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)の場合
遺族年金も同様に、国民年金法や厚生年金保険法といった法律に基づき、遺されたご遺族の生活を保障するために「遺族」に対して直接支給されるものです。これも亡くなった方の財産ではないため、相続放棄をしても受給資格には影響しません。
その他、会社の規程などで受取人が遺族に指定されている死亡退職金や弔慰金なども、「受取人固有の財産」として受け取れる可能性が高いものに含まれます。
【要注意】税法上の「みなし相続財産」との違いを理解する
「相続放棄しても保険金はもらえるのに、税務署からは『相続税の対象です』と言われた。どういうこと?」
この点が、多くの方を混乱させるポイントです。
実は、財産の扱いは、相続放棄などを定める「民法」のルールと、相続税を計算する「税法」のルールとで異なります。
生命保険金や死亡退職金は、民法上は相続財産ではありませんが、税法上は「みなし相続財産」として、相続税の課税対象に含まれるのです。これは、被相続人の死亡を原因として取得する財産であることから、課税の公平性を保つために設けられたルールです。
<ポイント>
- 民法上の扱い: 相続財産ではない → 相続放棄の対象外
- 税法上の扱い: みなし相続財産である → 相続税の課税対象(※)
「相続税がかかること」と「相続放棄の対象になること」は、全く別の話と整理して覚えておきましょう。
※なお、生命保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という相続税の非課税枠がありますが、相続放棄をした人はこの非課税枠の適用を受けることはできません。
相続放棄で受け取れなくなる財産とは?
念のため、相続放棄によって受け取れなくなる「本来の相続財産」についても確認しておきましょう。これらの財産を受け取ってしまうと、相続放棄ができなくなる(法定単純承認)可能性があります。
- プラスの財産: 預貯金、不動産、株式、投資信託、自動車、貸付金など
- マイナスの財産: 借金、ローン、未払金、損害賠償義務、連帯保証人の地位など
相続放棄は、これらのプラスの財産もマイナスの財産もすべて手放す手続きです。
まとめ:正しい知識で、受け取れる権利を守りましょう
ご説明した通り、相続放棄をしても、受取人として指定されている生命保険金や、ご自身の権利として受給する遺族年金は、原則として受け取ることができます。これらは、故人が遺してくれた大切な生活資金や想いそのものです。
ただし、保険金の受取人が誰になっているかの確認は必須です。また、「みなし相続財産」のように、民法と税法で考え方が異なる部分もあり、判断に迷う場面も出てくるかもしれません。
ご自身のケースで確実に判断したい、手続きに不安があるという場合は、自己判断で進めてしまう前に、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
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