相続人が「自己破産」している場合はどうなる?相続財産は誰のものになるのか。

「相続人の一人である兄弟が、自己破産の手続き中らしい。このまま遺産分割協議を進めても大丈夫だろうか?」
「自分がもうすぐ相続する予定だが、借金が多くて自己破産も考えている。相続財産はどうなってしまうのだろう?」
相続人の中に自己破産をしている方、あるいは自己破産を検討している方がいる場合、相続手続きは通常よりも複雑になります。相続するはずだった財産が、債権者への返済に充てられてしまう可能性があるためです。
知らずに手続きを進めると、後から大きなトラブルに発展しかねません。相続と自己破産が重なった場合、相続財産が法的にどのように扱われるのか、正確に理解しておくことが重要です。
この記事では、相続人が自己破産している場合の遺産分割の進め方、相続財産の行方、そして注意すべき点について、相続問題に精通した税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
結論:自己破産した相続人の相続分は「破産財団」に組み込まれる
まず結論から言うと、自己破産手続き中の相続人が得るはずだった相続財産は、原則として本人の手元に残りません。
自己破産をすると、裁判所によって「破産管財人」が選任されます。破産管財人とは、破産者の財産を管理・調査し、お金に換えて債権者に公平に分配する役割を担う弁護士です。
このとき、破産管財人が管理する破産者の財産全体を「破産財団」と呼びます。そして、相続によって得られる財産も、この破産財団に組み込まれることになるのです。
つまり、自己破産した相続人の相続分は、破産管財人の管理下に置かれ、最終的には債権者への配当(返済)に使われるのが原則です。
相続が発生した「タイミング」が重要
自己破産と相続で最も重要なポイントは、「いつ相続が発生したか」というタイミングです。それによって、手続きの進め方や財産の扱いが大きく異なります。
① 破産手続「開始決定前」に相続が発生した場合
自己破産の申立てをする前に相続が発生した場合、その相続財産は「申立て時点でのご自身の財産」として、裁判所に正直に申告しなければなりません。もしこの財産を隠して自己破産の申立てをすると、財産隠し(詐欺破産罪)とみなされ、借金の免除が認められなくなる(免責不許可)可能性があります。
② 破産手続決定後に相続が発生した場合
破産管財人がいる場合の遺産分割協議の進め方
他の相続人にとって、交渉相手が破産管財人となるのは非常にやりにくいものです。破産管財人の使命は、1円でも多く債権者に配当することだからです。
- 不動産など分けにくい財産:不動産など簡単に分けられない財産がある場合、破産管財人は不動産を売却してお金に換える「換価分割」を求めることが多くなります。「この家には住み続けたい」といった他の相続人の希望は、簡単には通りません。
- 特別受益の主張:過去に他の相続人が被相続人から多額の生前贈与(特別受益)を受けていた場合、破産管財人はその点を厳しく追及し、破産者の取り分を増やすよう主張してくる可能性があります。
このように、破産管財人との交渉は法的な知識が不可欠であり、非常にシビアなものとなります。
債務者の相続人が取れる対策はあるか?
では、自己破産をする相続人が、相続財産をどうにかして守る方法はないのでしょうか。
相続放棄
一つの方法として「相続放棄」があります。相続放棄をすれば、その人は初めから相続人ではなかったことになるため、相続財産が破産財団に組み込まれることはありません。
しかし、注意が必要です。破産管財人は、この相続放棄が「債権者を害する目的で行われた財産隠し(詐害行為)」であると判断した場合、相続放棄の効果を取り消す(否認権の行使)可能性があります。特に、相続財産が多額であるにもかかわらず放棄した場合は、そのリスクが高まります。
安易な相続放棄は危険ですので、必ず事前に弁護士にご相談ください。
最善の対策は、被相続人による「遺言書」の作成
将来、相続人の一人が自己破産する可能性があるなど、ご自身の財産を特定の相続人に渡したくない事情がある場合、最も有効な対策は、被相続人となる方が生前に「遺言書」を作成しておくことです。
遺言書で、自己破産しそうな相続人以外の人に財産を相続させる旨を明記しておけば、その意思が尊重されます。ただし、破産した相続人にも最低限の取り分である「遺留分」を請求する権利は残ります。この遺留分については、破産管財人が請求してくる可能性があります。
遺言書の作成は、将来のトラブルを防ぎ、ご自身の意思を実現するための非常に強力な手段です。
まとめ
相続人の中に自己破産をしている方がいる場合、相続財産は破産管財人の管理下に置かれ、遺産分割協議も通常通りには進みません。相続のタイミングや破産管財人との交渉など、法的な知識がなければ対応が難しい問題が数多く発生します。
ご自身の状況でどうすればよいか、他の相続人としてどう対応すべきか、お悩みの方は、問題を複雑にしないためにも、できるだけ早く弁護士にご相談ください。
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広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員