相続した実家を親族が占有。明け渡しを請求するためには

親が亡くなり、実家を兄弟で相続したものの、相続人の一人がそこに住み続け、遺産分割協議にも応じようとしない。「売却して現金で分けたいのに、出て行ってくれない」「家賃も払わずに居座り続けているのは不公平だ」。このように、特定の相続人による不動産の「占有」は、遺産分割を停滞させ、親族間の対立を深刻化させる大きな原因となります。
このような状況で、占有している相続人に対して、法的に明け渡しを求めることはできるのでしょうか。この記事では、相続不動産を占有する親族への正しい対処法と、明け渡しを実現するための具体的な法的手段について、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
遺産分割前の不動産は「相続人全員の共有状態」
まず、法的な状況を正確に理解しましょう。遺産分割協議が完了するまでの間、相続不動産は、相続人全員の「共有」の状態にあります。つまり、占有している相続人も、共有者の一人としてその不動産を使用する権利を持っています。したがって、その人は「不法占拠者」ではありません。警察に連絡しても、民事不介入を理由に対応はしてもらえません。
しかし、共有者だからといって、不動産全体を無償で独占的に使用する権利はありません。他の共有者(相続人)の持分を侵害している部分について、場合によっては家賃相当額を支払う義務が生じるケースがあります。
明け渡しを求めるための3ステップ解決法
占有を続ける相続人に対しては、以下のステップで段階的に解決を目指します。
ステップ1:弁護士を通じ、選択肢を提示して交渉する
まずは、弁護士を代理人として、相手方に対し、正式な書面などでこちらの要求を伝えます。感情的に「すぐに出ていけ」と主張するのではなく、以下のような具体的な選択肢を提示して、交渉のテーブルに着くことを求めます。
- 案1:退去して、不動産を売却する(換価分割)
不動産を売却し、その代金を法定相続分に応じて公平に分配する方法。 - 案2:他の相続人の持分を買い取る(代償分割)
住み続けたいのであれば、他の相続人の持分に相当する代償金を支払い、不動産を単独で所有する方法。 - 案3:他の相続人に家賃を支払う
遺産分割が完了するまでの間、他の相続人の持分に応じた家賃相当額を支払う方法。
ステップ2:家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てる
当事者同士での交渉が難しい場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。調停では、不動産の分け方が最大の争点となります。調停委員が間に入ることで、占有を続けることの法的な問題点を相手方に伝え、上記のような現実的な解決策に応じるよう、説得してくれます。ここで分割方法について合意(例えば「売却する」)ができれば、明け渡しへの大きな一歩となります。
ステップ3:最終手段としての「建物明渡請求訴訟」と「強制執行」
遺産分割調停や、その後の審判で不動産を売却するために、相続人は建物を明け渡す方針が決まったにもかかわらず、相手がそれに従わない。このような場合の最終手段が、地方裁判所への「建物明渡請求訴訟」です。
この訴訟で勝訴判決を得れば、それは「明け渡しを強制的に執行できる」という、国のお墨付きを得たことになります。それでも相手が任意に退去しない場合は、最終的に裁判所の執行官と共に、強制的に退去させる「強制執行」の手続きをとることができます。
過去の家賃相当額(不当利得)も請求できる
明け渡しを求める手続きとは別に、相手がこれまで無償で不動産を独占的に使用していた期間について、あなたの持分に応じた家賃相当額の支払いを求める「不当利得返還請求」を行うことも可能です。これも、交渉や調停、訴訟の中で合わせて主張していくことになります。
しかしながら、被相続人(亡くなった方)の生前から無償で居住を続けている場合は使用貸借が成立しており、家賃相当額の請求ができないケースもあります。詳しくは弁護士にご相談ください。
虎ノ門法律経済事務所 横須賀支店の強み
- ①1972年創立、所属弁護士数約100名の実績と経験
1972年の創立以来、半世紀にわたり数多くの相続案件を手掛けてまいりました。約100名の弁護士が所属しており、それぞれの事案で蓄積された豊富な判例知識と実務経験を基に、最適な解決策をご提案します。 - ②税理士・司法書士有資格の弁護士が対応
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当事務所は、司法書士、税理士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、不動産仲介業者がグループ内に存在するため、各専門家と緊密に連携し、あらゆる手続きをワンストップでサポートすることが可能です。
相続にお困りの方は虎ノ門法律経済事務所にご相談ください。
相続不動産の占有問題は、相続人間の感情的な対立が最も激しくなりやすい、非常に難しい紛争です。しかし、法律は、あなたの共有者としての権利を守るための手続きを、段階的にきちんと用意しています。問題を放置すれば、解決はますます困難になります。相手との直接交渉に限界を感じたら、速やかに私たち専門家にご相談ください。あなたの代理人として、法に基づき、粘り強く交渉・主張を行います。
>>無料相談の流れはこちら本記事は、令和7年8月11日時点の法令等に基づき作成しております。法改正などにより、最新の情報と異なる場合がございます。具体的な事案については必ず弁護士にご相談ください。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員