学費や留学費用は特別受益になるか?扶養の範囲との境界線

遺産分割協議において、「兄だけが私立の医学部に進学し、多額の学費を出してもらっていた」「妹は海外留学の費用を親に援助してもらっていた」。このような兄弟姉妹間の教育費の差は、相続における不公平感の大きな原因となります。親から受けた学費の援助は、相続財産の前渡しである「特別受益」として、遺産分割の際に考慮されるのでしょうか。
この問題は、法律上、明確な線引きが難しく、しばしば激しい争いの火種となります。なぜなら、親が子に教育を受けさせることは「扶養義務」の一環とも考えられるからです。この記事では、学費や留学費用が特別受益にあたるかどうかの判断基準となる、「扶養の範囲」との境界線について、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
判断の分かれ目:「扶養義務」か「特別な贈与」か
特別受益とは、特定の相続人が受けた、遺産の「前渡し」と評価できるような特別な贈与のことです。一方で、親には子に対する「扶養義務」があり、その義務の範囲内で行われた生活費や教育費の援助は、特別受益にはあたりません。
つまり、学費の援助が、親の資力や社会的地位に照らして、通常の扶養の範囲内と言えるのか、それとも、その範囲を大きく超える「特別な贈与」であったのか、という点が、特別受益にあたるかどうかの判断の分かれ目となります。
裁判所が考慮する4つの判断基準
学費が特別受益にあたるかどうかについて、裁判所は画一的な基準を設けていません。個別の事案ごとに、以下の4つのような要素を総合的に考慮して、その当否を判断します。
① 被相続人(親)の資産状況と社会的地位
亡くなった親御様の生前の資産や収入、社会的地位が重要な判断材料となります。例えば、ご自身も医師で、多くの資産を持つ親が、子供の一人を私立医学部に進学させたとしても、それは家庭環境に相応の扶養の範囲内と判断される可能性があります。一方で、ごく一般的な収入の家庭で、他の兄弟の進学を諦めさせてまで、一人に多額の学費を集中させた場合は、特別受益と認められやすくなります。
② 教育のレベル(高校・大学・大学院など)
時代背景と共に、扶養の範囲とみなされる教育レベルも変化しています。
- 高校までの学費:現在の日本では、高校進学が一般的であるため、特別受益と判断されることは、難しいといえるでしょう。
- 大学の学費:大学進学率の上昇に伴い、標準的な4年制大学の学費であれば、扶養の範囲内と判断される傾向が強まっています。ただし、私立の医学部・歯学部など、特に高額な学費は、特別受益と判断される可能性が高まります。
- 大学院や海外留学の費用:これらは、通常の高等教育の範囲を超えるものとして、特別受益と判断されやすい傾向にあります。
③ 他の相続人(兄弟姉妹)との比較
これが、実務上最も重視される要素の一つです。他の兄弟姉妹が受けた教育費の援助と比較して、著しい不公平があるかどうかが、厳しく問われます。例えば、兄弟全員が私立大学に進学し、その学費に多少の差がある程度では、特別受益とは認められにくいでしょう。しかし、一方は大学院まで、もう一方は高校まで、といったように、教育機会に明らかな格差がある場合は、その差額分が特別受益と判断される可能性が高まります。
④ 被相続人(親)の生前の意思
親御様が生前、「この学費は、将来の相続分の前渡しだから」といった意思を示していたかどうか、という点も考慮されます。ただし、明確な証拠がない限り、客観的な状況から判断されることがほとんどです。
虎ノ門法律経済事務所 横須賀支店の強み
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学費が特別受益にあたるかどうかの問題は、明確な答えがない、非常にデリケートで専門的な判断が求められる分野です。「不公平だ」という感情的な主張だけでは、法的な請求は認められません。ご自身のケースで、特別受益の主張が法的に認められる可能性があるのか、そして、そのためにどのような証拠が必要なのか。まずは私たち専門家にご相談いただき、客観的な見通しを立てることが、解決への第一歩となります。
>>無料相談の流れはこちら本記事は、令和7年8月11日時点の法令等に基づき作成しております。法改正などにより、最新の情報と異なる場合がございます。具体的な事案については必ず弁護士にご相談ください。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員