亡くなった親が自営業・個人事業主の場合の相続放棄|事業の借金・資産の注意点

亡くなった親が個人事業主や自営業者として事業を営んでいた場合、その相続は会社員だった場合とは比較にならないほど複雑になります。事業用の借入金、取引先への未払金(買掛金)、リース契約といった負債がある一方で、店舗や設備、売掛金、在庫商品といった資産も存在し、その全体像を把握するのは容易ではありません。
「事業の借金が多そうだから相続放棄したいけれど、事業で使っていた資産の扱いはどうなるの?」「うっかり何かをして、相続放棄できなくなってしまったらどうしよう」。そんな大きな不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。この記事では、個人事業主の相続における相続放棄の特殊性と、絶対に知っておくべき注意点について、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
個人事業主の相続:事業と個人は「一心同体」
相続放棄を検討する上で、まず理解すべき大原則は、個人事業主の場合、事業と個人は法的に一体として扱われるということです。法人(会社)とは異なり、事業主個人の財産と事業の財産の間に区別はありません。
したがって、相続放棄をする場合は、以下のプラスの財産とマイナスの財産を、全て丸ごと放棄することになります。
- プラスの財産(例):
- 個人の預貯金、自宅不動産
- 事業用の店舗・設備、在庫商品、売掛金、事業用口座の預金
- マイナスの財産(例):
- 個人の住宅ローン、カードローン
- 事業資金の借入金、買掛金、リース債務、未払いの家賃や給与
「事業の借金は放棄するが、自宅だけは相続する」といった、都合の良い選択は一切できないのです。
相続放棄の判断は時間との勝負!3ヶ月の期限と財産調査
相続放棄の期限は、原則として「相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」です。しかし、個人事業主の財産調査は、個人の場合に比べて遥かに複雑で、時間がかかります。帳簿が整理されていなかったり、個人と事業の支出が混在していたりして、3ヶ月でプラスとマイナスのどちらが多いかを正確に判断するのは、至難の業と言えるでしょう。
そのため、個人事業主の相続では、安易に判断する前に、まずは家庭裁判所に「熟慮期間伸長の申立て」を行い、判断までの時間を確保することが非常に重要です。この手続きも3ヶ月以内に行う必要があります。
要注意:相続放棄できなくなるNG行為|事業資産の処分は厳禁
相続放棄を検討している期間中に、相続財産の一部でも「処分」してしまうと、相続する意思があるとみなされ(法定単純承認)、相続放棄ができなくなってしまいます。個人事業主の相続では、特に以下の行為に注意が必要です。
絶対にやってはいけない行為の例
- 売掛金の回収:取引先から売掛金を取り立て、自分の口座に入金してしまう行為。これは、相続財産である債権を行使したとみなされます。
- 在庫商品の販売:残っている商品を「もったいないから」と安売りするなどして、換金してしまう行為。
- 事業用資産の私的利用:事業で使っていたパソコンや自動車などを、自分のものとして使い始める行為。
- 事業用口座からの出金:事業用口座からお金を引き出し、個人的な支払いに充てる行為。
良かれと思って行った行為が、結果的に多額の借金を背負うことにつながりかねません。財産には一切手を付けず、まずは弁護士にご相談ください。
虎ノ門法律経済事務所 横須賀支店の強み
- ①1972年創立、所属弁護士数約100名の実績と経験
1972年の創立以来、半世紀にわたり数多くの相続案件を手掛けてまいりました。約100名の弁護士が所属しており、それぞれの事案で蓄積された豊富な判例知識と実務経験を基に、最適な解決策をご提案します。 - ②税理士・司法書士有資格の弁護士が対応
相続問題、特に不動産や多額の財産が関わるケースでは、税務の視点が欠かせません。当事務所横須賀支店には、税理士・司法書士有資格の弁護士が在籍しています。法務と税務、登記の全方面から多角的なアドバイスをして最善の解決を目指します。 - ③グループ内で連携したワンストップサービス
当事務所は、司法書士、税理士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、不動産仲介業者がグループ内に存在するため、各専門家と緊密に連携し、あらゆる手続きをワンストップでサポートすることが可能です。
相続にお困りの方は虎ノ門法律経済事務所にご相談ください。
個人事業主の相続放棄は、時間との勝負であり、かつ、多くの法的な落とし穴が潜んでいます。ご自身の判断で動く前に、まずは専門家である弁護士に状況をお話しください。私たちは、迅速な財産調査から、熟慮期間伸長の申立て、そして確実な相続放棄手続きまで、あなたを全面的にサポートし、予期せぬ借金の承継という最悪の事態からあなたを守ります。
>>無料相談の流れはこちら本記事は、令和7年8月11日時点の法令等に基づき作成しております。法改正などにより、最新の情報と異なる場合がございます。具体的な事案については必ず弁護士にご相談ください。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員