おしどり夫婦贈与のデメリットと注意点|弁護士が教える「本当に得する夫婦」の条件

はじめに
「長年連れ添ったパートナーに感謝を込めて、自宅を生前贈与したい」
そんな想いを叶える制度として、最大2,110万円まで贈与税がかからない「おしどり夫婦贈与」は非常に魅力的です。
しかし、そのメリットばかりに目を向けて安易に利用すると、「こんなはずではなかった…」「相続まで待った方が得だった…」と後悔してしまうケースが少なくありません。
この記事では、相続問題に精通した弁護士が、おしどり夫婦贈与の知られざる「デメリット」と「注意点」に焦点を当て、どのようなご夫婦が本当にこの制度を活用すべきなのか、その条件を税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
【税金の落とし穴】おしどり夫婦贈与の3つのデメリット
まず、お金に直結する「税金」の観点から、見過ごされがちなデメリットを3つご紹介します。
デメリット1:贈与税は非課税でも、他の税金は高額になる!
おしどり夫婦贈与で非課税になるのは、あくまで「贈与税」だけです。不動産の名義変更には、以下の2つの税金が別途かかります。
- 登録免許税: 不動産の名義変更時に法務局へ納める税金です。相続の場合は税率0.4%ですが、贈与の場合は2%と、実に5倍もの税率になります。
- 不動産取得税: 贈与から数ヶ月後に都道府県から課税される税金です。相続の場合は課税されませんが、贈与の場合は原則として課税対象となります。(※一定の要件で軽減措置あり)
これらの税金を合計すると、数十万円となることも珍しくなく、「非課税だと思っていたのに、予想外の出費だった」という事態に陥りがちです。
デメリット2:相続税の「小規模宅地等の特例」が使えなくなる
これが、おしどり夫婦贈与における最大の注意点と言っても過言ではありません。
相続税には、ご自宅の土地の評価額を最大80%も減額できる「小規模宅地等の特例」という非常に強力な節税制度があります。
例えば5,000万円の土地評価額が1,000万円になる、というほどのインパクトです。
おしどり夫婦贈与を使って生前に名義を変更してしまうと、将来の相続時に、この最強の節税が使えなくなってしまうのです。その結果、生前贈与をしなかった場合と比較して、家族全体で支払う税金の総額が高くなる「逆転現象」が起こる可能性があります。
なお、オシドリ夫婦贈与における受贈者が死亡した場合に要件を満たせば「小規模宅地等の特例」が利用できます。
デメリット3:不動産の価値が下落するリスク
贈与税の計算は、贈与した「時点」の不動産評価額を基準に行います。
例えば、評価額3,000万円の時に贈与して特例を使ったとします。しかし、その後景気や周辺環境の変化で不動産価値が下落し、相続時には1,500万円の価値になっていたとしたらどうでしょう。
結果的に、価値が高い時に贈与してしまったことで、相続まで待った方が有利だった、というケースもあり得るのです。
【手続き・生活面の落とし穴】見落としがちな3つの注意点
次に、税金以外の手続き面や生活面での注意点です。
注意点1:一度贈与したら、簡単には取り消せない
贈与は法的な「契約」です。一度手続きを完了させてしまうと、「やはりやめたい」「他の相続人から反対された」となっても、原則として一方的に取り消すことはできません。万が一、将来夫婦関係が変化した場合など、予期せぬトラブルの原因になる可能性もゼロではありません。
注意点2:要件を満たさないと、特例は水の泡に
この特例には、「婚姻期間20年以上」「贈与の翌年3月15日までに居住する」「必ず贈与税の申告をする」といった細かい要件があります。一つでも満たさないと、特例は適用されず、高額な贈与税が課されてしまうリスクがあります。
注意点3:将来、不動産の売却や活用がしにくくなる
ご自宅の名義を夫婦の共有名義にした場合、将来その家を売却したり、大規模リフォームのためにローンを組んだりする際に、必ず夫婦双方の同意と実印が必要になります。どちらかの意思能力が低下してしまった場合など、不動産の活用がスムーズにできなくなる可能性があります。
それでも「おしどり夫婦贈与」が本当に得する夫婦の3つの条件
では、デメリットや注意点を踏まえた上で、どのようなご夫婦がこの制度を活用すべきなのでしょうか。私たちは、主に以下の3つの条件に当てはまる場合でしょう。
条件1:そもそも相続税の心配がない夫婦
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除があります。おしどり夫婦贈与後に遺産総額がこの範囲に収まるご家庭では、そもそも相続税がかかりません。その場合、最大のデメリットである「小規模宅地等の特例」との比較を気にする必要がないため、純粋にパートナーへの感謝の気持ちとして、また生前の安心材料として、この制度を活用するメリットは大きいでしょう。
条件2:相続トラブルのリスクが高いと予想される夫婦
相続人が多い、特定の相続人との関係が良くないなど、将来「争族」になる可能性が高い場合です。このようなケースでは、税金の損得勘定よりも、「パートナーに確実に自宅を残す」という目的を達成することが最優先事項となります。おしどり夫婦贈与は、パートナーの居住権を法的に確定させる、非常に有効なトラブル予防策となります。
相続人の中に前妻の子がいる場合や、会ったこともない相続人がいるケースが当てはまります。
条件3:財産のほとんどが自宅で、預貯金が少ない夫婦
遺産が自宅不動産に偏っている場合、相続時に遺産分割で揉めると、最悪の場合、自宅を売却して現金で分けざるを得ない状況に追い込まれることがあります。そうなる前に、生前のうちにパートナーへ自宅を贈与しておくことで、安心して住み続けられる生活基盤を守る、という考え方は有効です。
ただし、このケースでこそ細心の注意を払うべきなのが「遺留分」のリスクです。
他の相続人(主にお子様)には、法律で保障された最低限の遺産の取り分である「遺留分」があります。おしどり夫婦贈与は、遺産分割時の計算(特別受益の持ち戻し)は免除されますが、遺留分の計算からは免除されません。
そのため、財産の大部分を占める自宅を配偶者に贈与すると、他の相続人の遺留分を大きく侵害してしまう可能性が高くなります。その結果、相続が発生した後、お子様たちから配偶者に対して「遺留分侵害額請求」をされ、侵害した分を金銭で支払うよう求められるのです。
もし贈与を受けた配偶者に十分な預貯金がなければ、遺留分を支払うために、せっかく贈与された自宅を売却せざるを得ない、という本末転倒な事態に陥りかねません。
このような悲劇を避けるためには、おしどり夫婦贈与を実行する前に、「他の相続人の遺留分を侵害しないか」を正確にシミュレーションすることが不可欠です。場合によっては、遺言書や生命保険などを組み合わせた、複合的な対策が必要となります。だからこそ、生前のうちに弁護士などの専門家へ相談し、遺留分まで見据えた最適な対策を講じることが極めて重要なのです。
最終判断は専門家とのシミュレーションが不可欠です
結局、「おしどり夫婦贈与」と「相続」、どちらが有利なのかは、お客様の資産状況、家族構成、そして何よりも「何を一番大切にしたいか」によって結論が変わります。
後悔のない選択をするためには、目先の贈与税だけでなく、将来の相続税、そして登録免許税や不動産取得税といった諸費用まで含めた税金のトータルコストを正確にシミュレーションすることが不可欠です。
【ワンストップで解決】おしどり夫婦贈与の手続きは誰に頼む?
おしどり夫婦贈与という素晴らしい制度を利用しようと決めたとき、「具体的に何をすればいいのか?」「誰に相談すればいいのか?」という疑問に突き当たるかと思います。
この手続きを完了させるためには、主に3つの異なる専門分野の手続きが必要となります。
1. 不動産の名義変更(贈与登記)
贈与の意思を明確にする「贈与契約書」を作成し、法務局で不動産の名義を正式に配偶者へ変更する「所有権移転登記」を行う必要があります。これは、主に司法書士の専門分野です。
2. 贈与税の申告
この特例の適用を受けるためには、たとえ贈与税が0円になる場合でも、必ず税務署へ「贈与税の申告」を行わなければなりません。この税務申告は、税理士の専門分野です。
3. 不動産取得税の軽減措置の申告
贈与後に課税される不動産取得税には、一定の要件を満たすことで税額が大幅に軽減される措置があります。しかし、この軽減措置は自動では適用されず、都道府県税事務所へ申告・申請しなければなりません。この手続きを忘れると、数十万円単位で損をしてしまう可能性があります。
通常、これらの手続きを進めるには、司法書士と税理士、それぞれに個別に連絡・依頼する必要があり、手間や時間がかかってしまいます。
しかし、当事務所にご相談いただければその心配はございません。
当事務所の横須賀支店には税理士・司法書士の資格も保有する弁護士が在籍しております。そのため、贈与契約書の作成から、法務局への登記申請、そして税務署への贈与税申告まで、おしどり夫婦贈与に関するすべての手続きを当事務所の弁護士がワンストップでサポートすることが可能です。
窓口が一つになることで、お客様の手間が省けるだけでなく、専門家間のスムーズな連携により、迅速かつ確実な手続きを実現いたします。
当事務所が相続問題で選ばれる理由
当事務所は、皆様の複雑な相続問題を解決するために、他にはない強みを持っています。
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1972年の創立以来、半世紀にわたり数多くの相続案件を手掛けてまいりました。約100名の弁護士が所属しており、それぞれの事案で蓄積された豊富な判例知識と実務経験を基に、最適な解決策をご提案します。
②税理士・司法書士有資格の弁護士が対応
相続問題、特に不動産や多額の財産が関わるケースでは、税務の視点が欠かせません。当事務所横須賀支店には、税理士・司法書士有資格の弁護士が在籍しています。法務と税務、登記の全方面から多角的なアドバイスをして最善の解決を目指します。
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当事務所は、司法書士、税理士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、不動産仲介業者がグループ内に存在するため、各専門家と緊密に連携し、あらゆる手続きをワンストップでサポートすることが可能です。
相続にお困りの方は虎ノ門法律経済事務所にご相談ください
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広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員