【弁護士が解説】遺留分侵害額請求の調停・訴訟の流れと準備

「遺産のほとんどを兄に相続させる」といった内容の遺言書が見つかった場合、あなたは「遺留分」という最低限の遺産取得分を請求できる可能性があります。しかし、相手方が話し合いに応じなかったり、金額で折り合いがつかなかったりすると、法的な手続きである「調停」や「訴訟」を検討しなければなりません。
この記事では、遺留分侵害額請求の調停・訴訟という複雑な手続きの流れと、それに臨むための重要な準備について、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
まずは「調停」から始めるのが原則(調停前置主義)
遺留分侵害額請求は、いきなり訴訟(裁判)を起こすことは原則としてできず、まずは家庭裁判所に「調停」を申し立てる必要があります。これを「調停前置主義」といいます。調停は、裁判官と民間の有識者から選ばれる調停委員が間に入り、あくまで「話し合い」による解決を目指す手続きです。
【ステップ別】遺留分侵害額請求の「調停」の流れ
調停は、非公開の場で、比較的穏やかな雰囲気で進められます。主な流れは以下の通りです。
ステップ1:家庭裁判所への申立て
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所に、遺留分侵害額請求調停の申立書を提出します。申立書には、請求の趣旨や理由、遺産の内容などを記載し、収入印紙や郵便切手を添えて提出します。
ステップ2:調停期日の決定と呼出し
申立てが受理されると、裁判所が第1回の調停期日を決定し、申立人と相手方の双方に「呼出状」を送付します。申立てから第1回期日までは、通常1か月から2か月程度かかります。
ステップ3:調停期日での話し合い
当日は、当事者が別々の待合室で待機し、交互に調停室に呼ばれて、調停委員に自分の主張を伝えます。相手方と直接顔を合わせることは基本的にありません。調停委員は、双方の主張を聞き、証拠を確認しながら、解決案を提示するなどして、合意形成をサポートします。
ステップ4:調停の成立または不成立
話し合いがまとまれば、「調停調書」が作成され、調停は成立します。この調停調書は、確定判決と同じ効力を持ち、強制執行も可能です。
一方、話し合いがまとまらなければ、調停は「不成立」として終了します。
調停が不成立なら「訴訟」へ
調停が不成立となった場合、遺留分を請求するためには、地方裁判所(または簡易裁判所)に「訴訟」を提起する必要があります。
【ステップ別】遺留分侵害額請求の「訴訟」の流れ
訴訟は、調停とは異なり、公開の法廷で行われ、法律と証拠に基づいて裁判官が最終的な判断(判決)を下す手続きです。
ステップ1:訴状の提出
請求する側(原告)が、相手方(被告)の住所地を管轄する裁判所に「訴状」を提出します。
ステップ2:口頭弁論
公開の法廷で、原告と被告がそれぞれの主張を書面(準備書面)で提出し、その内容を口頭で陳述してやり取りをします。
主張を裏付けるための証拠(遺言書、預金通帳、不動産評価書など)も提出し、必要に応じて、当事者本人や証人への尋問(人証調べ)が行われます。
ステップ3:和解または判決
裁判官は、審理の途中で和解を勧告することがあります。和解が成立すれば、その内容で解決となります。和解に至らない場合は、裁判官が全ての主張と証拠を検討し、「判決」を下します。
調停・訴訟に臨むための3つの重要な準備
有利な結果を得るためには、事前の準備が極めて重要です。
1. 証拠の収集
遺留分を主張するためには、その根拠となる証拠が必要です。
- 遺言書の写し
- 戸籍謄本(相続関係を証明するため)
- 遺産目録、預金通帳、不動産の登記簿謄本など(遺産の全体像を把握するため)
- 生前贈与の証明資料(贈与契約書、振込記録など)
2. 遺留分侵害額の正確な計算
遺留分の計算は非常に複雑です。遺産の評価(特に不動産)、特別受益となる生前贈与の有無などによって金額が大きく変わります。特に不動産の評価は争点になりやすいため、専門的な知識が不可欠です。
3. 弁護士への相談
調停や訴訟は、専門的な法律知識と手続きへの理解がなければ、適切に進めることは困難です。相手方も弁護士を立ててくる可能性が高いため、ご自身だけで対応するのは得策ではありません。早い段階で弁護士に相談し、法的な見通しや戦略についてアドバイスを受けることが重要です。
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遺留分侵害額請求の調停・訴訟は、法律の専門知識だけでなく、相手方との交渉力や、裁判所を納得させるための論理的な主張・立証が求められる、非常に専門性の高い手続きです。ご自身の正当な権利を守り、納得のいく解決を得るために、まずは一度、相続問題に精通した弁護士にご相談ください。
本記事は、令和7年9月10日時点の法令等に基づき作成しております。法改正などにより、最新の情報と異なる場合がございます。具体的な事案については必ず弁護士にご相談ください。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員