【おしどり夫婦贈与の完全ガイド】2110万円まで非課税!制度のメリットと適用要件を弁護士が分かりやすく解説

はじめに
「長年連れ添った妻(夫)に、感謝の気持ちを込めて自宅を贈与したい」
「自分が亡くなった後も、パートナーが安心して今の家に住み続けられるようにしたい」
横須賀エリアにお住まいで、このように考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
そんな想いを実現するための一つの方法として、「おしどり夫婦贈与」という制度があるのをご存知でしょうか。これは、一定の条件を満たせば、実に最大2110万円まで贈与税がかからずに夫婦間で居住用の不動産を贈与できる、非常にメリットの大きい特例です。
しかし、この制度を最大限に活用するためには、そのメリットだけでなく、適用するための要件や注意点を正しく理解しておく必要があります。
この記事では、生前贈与や相続問題に詳しい当事務所の弁護士が、「おしどり夫婦贈与」の基本から具体的なメリット、そして損をしないための注意点まで、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
「おしどり夫婦贈与」とは?正式名称は「贈与税の配偶者控除」
「おしどり夫婦贈与」とは、法律上の正式な名称ではなく、一般的に使われている愛称です。正式には「贈与税の配偶者控除」といいます。
これは、婚姻期間が20年以上のご夫婦の間で、住まいのための不動産(居住用不動産)や、その不動産を購入するためのお金(取得資金)の贈与が行われた場合に、贈与税の計算から最高2,000万円まで控除できるという特例制度です。
さらに、この2,000万円の控除は、贈与税の基礎控除である年間110万円と併用が可能です。つまり、合計で最大2110万円までの贈与であれば、贈与税がかからないということになります。
見逃せない!おしどり夫婦贈与の3つの大きなメリット
この制度を活用することには、単に税金が安くなるという以外にも、将来を見据えた大きなメリットがあります。
メリット1:生前のうちにパートナーへ感謝を伝えられる
最大のメリットは、ご自身の意思で、感謝の気持ちを形としてパートナーに伝えられる点です。相続を待つのではなく、元気なうちに自宅の権利を贈与することで、パートナーに安心感を与えることができます。パートナーに自宅を渡す方法として遺言による方法もありますが、遺言はいつでも撤回可能であるため、その意味ではパートナーは不安定な状態だといえます。生前贈与の方が確実に自宅を取得できる点でメリットがあるといえるでしょう。
メリット2:将来の相続財産を減らし、「争族」を予防できる【7年ルール対象外!】
生前に自宅を贈与しておくことで、ご自身の相続財産を事前に減らすことができます。
ここで非常に重要なポイントが、2024年1月1日から改正された「生前贈与の7年持ち戻し」ルールとの関係です。通常、亡くなる前7年以内に行われた生前贈与は、相続税を計算する際に相続財産に加算(持ち戻し)され、相続税の課税対象となってしまいます。
しかし、「おしどり夫婦贈与」の特例を使った部分(最大2,000万円)は、この7年持ち戻しルールの対象外です。
つまり、万が一贈与から7年以内に相続が発生してしまったとしても、この制度を使って贈与したご自宅は相続財産に加算されず、相続税の課税対象になりません。これは、他の生前贈与にはない、非常に強力な相続税対策としてのメリットと言えます。
また、相続財産の中で最も価値が大きく分けにくい不動産を、この制度で生前に配偶者へ渡しておくことで、将来、お子様たちの間で遺産の分け方を巡るトラブルが起きるリスクを減らす効果も期待できます。
メリット3:パートナーの老後の生活基盤を法的に守れる【特別受益の対象外!】
例えばご自宅の名義が夫のみの場合、夫が亡くなるとその家は相続財産となり、遺産分割協議の対象となります。万が一、他の相続人との協議がまとまらなければ、妻は住み慣れた家を出ていかなくてはならない、という事態も起こり得ます。
生前に妻の名義(または共有名義)にしておくことで、妻の「住む権利」が法的に明確に保護されます。
さらに、法改正によって、この生活基盤の保護がより一層強固になりました。
通常、特定の相続人が高額な生前贈与を受けていると、それは「特別受益」とみなされ、遺産分割の際にその贈与分を差し引いて(持ち戻して)計算されるのが原則です。
しかし、おしどり夫婦贈与は、民法第903条第4項の規定により、この「特別受益の持ち戻し」が原則として免除されます。
これにより、他の相続人から「あなたは生前に自宅をもらったのだから、預貯金などの取り分はその分少なくなるべきだ」と主張される心配がなくなります。つまり、贈与された自宅は“プラスアルファの財産”として確保した上で、残りの遺産についても本来の相続分を確保しやすくなるのです。
このように、おしどり夫婦贈与は、住まいだけでなく、老後の生活資金まで含めたパートナーの生活全体を法的に守る、非常に有効な手段と言えます。
【重要】おしどり夫婦贈与を利用するための5つの適用要件
このメリットの大きい制度ですが、誰でも利用できるわけではありません。以下の5つの要件をすべて満たす必要がありますので、ご自身が当てはまるか確認してみましょう。
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後の贈与であること(内縁関係は対象外)。
- 贈与された財産が、自分が住むための居住用不動産であること、または居住用不動産を取得するためのお金であること。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その不動産に実際に居住し、その後も引き続き住む見込みであること。
- 同じ配偶者からの贈与について、過去にこの特例を利用したことがないこと(利用は一度きりです)。
- 贈与税がかからない場合でも、必ず贈与税の申告を行うこと。
これらの要件で一つでも不明な点があれば、ご自身で判断せず専門家にご相談ください。
メリットだけじゃない!知っておくべき注意点とデメリット
次に、専門家として必ずお伝えしたい注意点です。メリットだけを見て安易に手続きを進めると、「こんなはずではなかった」と後悔する可能性があります。
注意点1:贈与税はかからなくても「登録免許税」と「不動産取得税」はかかる
おしどり夫婦贈与で非課税になるのは、あくまで「贈与税」です。不動産の名義変更(所有権移転登記)を行う際には「登録免許税」が、また贈与から数ヶ月後に「不動産取得税」が課税されます。これらの税金は、相続で名義変更する場合よりも税率が高く設定されているため、事前にどのくらいの費用がかかるか把握しておくことが重要です。
注意点2:相続税の「小規模宅地等の特例」が有利な場合もある
相続税には、亡くなった方の自宅敷地の評価額を最大80%も減額できる「小規模宅地等の特例」という非常に強力な節税制度があります。おしどり夫婦贈与を使って生前に名義を変えてしまうと、将来の相続でこの特例が使えなくなってしまう可能性があります。
どちらの制度がご自身のケースにとって有利なのかは、不動産の評価額や他の財産の状況によって大きく異なります。慎重なシミュレーションが必要です。
なお、自宅受贈者が死亡した場合に「小規模宅地等の特例」を適用できる可能性はあります。
注意点3:一度贈与したら簡単には元に戻せない
贈与は契約です。一度名義を変えてしまうと、後から「やはりやめたい」と思っても、簡単には元に戻せません。将来のライフプランの変化なども考慮した上で、慎重に判断する必要があります。
生前贈与と相続、結局どちらを選ぶべきか?
ここまで読んで、「結局、どちらが良いのだろう?」と悩まれた方もいらっしゃるでしょう。
おしどり夫婦贈与は、原則として遺産分割の際に計算に含めなくても良い(特別受益の持ち戻し免除の推定)というメリットもあり、相続トラブルの防止には非常に有効です。しかし、税金面だけを見れば、相続まで待って「小規模宅地等の特例」を使った方が有利なケースも少なくありません。
最適な選択は、ご家庭の資産状況、家族構成、そして何よりも「ご夫婦がどのような想いを持っているか」によって変わります。後悔のない選択をするためにも、ぜひ一度、相続に詳しい専門家にご相談ください。
【ワンストップで解決】おしどり夫婦贈与の手続きは誰に頼む?
おしどり夫婦贈与という素晴らしい制度を利用しようと決めたとき、「具体的に何をすればいいのか?」「誰に相談すればいいのか?」という疑問に突き当たるかと思います。
この手続きを完了させるためには、主に3つの異なる専門分野の手続きが必要となります。
1. 不動産の名義変更(贈与登記)
贈与の意思を明確にする「贈与契約書」を作成し、法務局で不動産の名義を正式に配偶者へ変更する「所有権移転登記」を行う必要があります。これは、主に司法書士の専門分野です。
2. 贈与税の申告
この特例の適用を受けるためには、たとえ贈与税が0円になる場合でも、必ず税務署へ「贈与税の申告」を行わなければなりません。この税務申告は、税理士の専門分野です。
3. 不動産取得税の軽減措置の申告
贈与後に課税される不動産取得税には、一定の要件を満たすことで税額が大幅に軽減される措置があります。しかし、この軽減措置は自動では適用されず、都道府県税事務所へ申告・申請しなければなりません。この手続きを忘れると、数十万円単位で損をしてしまう可能性があります。
通常、これらの手続きを進めるには、司法書士と税理士、それぞれに個別に連絡・依頼する必要があり、手間や時間がかかってしまいます。
しかし、当事務所にご相談いただければその心配はございません。
当事務所の横須賀支店には税理士・司法書士の資格も保有する弁護士が在籍しております。そのため、贈与契約書の作成から、法務局への登記申請、そして税務署への贈与税申告まで、おしどり夫婦贈与に関するすべての手続きを当事務所の弁護士がワンストップでサポートすることが可能です。
窓口が一つになることで、お客様の手間が省けるだけでなく、専門家間のスムーズな連携により、迅速かつ確実な手続きを実現いたします。
当事務所が相続問題で選ばれる理由
当事務所は、皆様の複雑な相続問題を解決するために、他にはない強みを持っています。
①1972年創立、所属弁護士数約100名の実績と経験
1972年の創立以来、半世紀にわたり数多くの相続案件を手掛けてまいりました。約100名の弁護士が所属しており、それぞれの事案で蓄積された豊富な判例知識と実務経験を基に、最適な解決策をご提案します。
②税理士・司法書士有資格の弁護士が対応
相続問題、特に不動産や多額の財産が関わるケースでは、税務の視点が欠かせません。当事務所横須賀支店には、税理士・司法書士有資格の弁護士が在籍しています。法務と税務、登記の全方面から多角的なアドバイスをして最善の解決を目指します。
③グループ内で連携したワンストップサービス
当事務所は、司法書士、税理士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、不動産仲介業者がグループ内に存在するため、各専門家と緊密に連携し、あらゆる手続きをワンストップでサポートすることが可能です。
相続にお困りの方は虎ノ門法律経済事務所にご相談ください
おしどり夫婦贈与は、大切なパートナーへの想いを形にできる素晴らしい制度です。しかし、その手続きや判断には、法律や税務の専門的な知識が不可欠です。
当事務所では、横須賀・三浦・逗子・葉山エリアの皆様からのご相談を承っております。「私たちの場合は使えるの?」「相続とどっちが得なの?」といったご質問から、具体的な手続きの代行まで、親身にサポートいたします。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。

広島大学(夜間主)で、昼に仕事をして学費と生活費を稼ぎつつ、大学在学中に司法書士試験に合格。相続事件では、弁護士・税理士・司法書士の各専門分野における知識に基づいて、多角的な視点から依頼者の最善となるような解決を目指すことを信念としています。
広島大学法科大学院卒業
平成21年 司法書士試験合格
令和3年4月 横須賀支部後見等対策委員会委員
令和5年2月 葉山町固定資産評価審査委員会委員
令和6年10月 三浦市情報公開審査会委員
令和6年10月 三浦市個人情報保護審査会委員
令和7年1月 神奈川県弁護士会横須賀支部役員幹事
令和7年3月 神奈川県弁護士会常議員